七海
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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先日の、北海道の出張先で。任務を終えた際に七海が五条から聞いた話は、大きく分けて二つだった。
ひとつは、両面宿儺の器・虎杖悠仁の生存とその隠蔽、そしてゆくゆくは七海に預かってほしいという事。
そしてもうひとつは、審神者の事についてだった。
『審神者からあの神達をひっぺがして、ただの呪術師にする』
『……幾ら五条さんでも、それは無謀では? 何十の神を相手にすると思ってるんですか』
『それもやぶさかではないけど〜。百人斬りとか面白そうだし』
『全く面白くないですね』
ノンアルコールのカクテルであるにもかかわらず酔っ払いのような戯言を、そう思った七海だったが、いやこの人は元からこんなだったなと思い直し続きを促す。『それは名案ではありませんが、貴方なら既に何か策があるのでは?』と。
察しの良い出来た後輩に、五条はにんまりと笑った。
『もちろん、いろいろ考えてはいるよ。とはいえ結局のところ、憂太の時みたいに審神者が自ら神達との繋がりを切らなきゃいけないんだけどね』
そして恐らく、そこが一番の難所なのだ。
『審神者は産まれながらに力を持ち、神達と共に生きてきた。アイツの中ではそれが常識で、何の疑いも持っていない』
『つまり、その常識を覆す事は難しいと』
『うん。今までの自分の生き方を否定されるようなものだし、審神者にとって神達は大切な存在なんだろうから、侮辱なんてしたらまずキレるだろうね』
『否定はしません。でもそこまでわかっていて、何故彼女と彼らを引き離そうとするんですか?』
審神者が解呪を望むならまだしも、現状では当事者達はそれを望んでいない。きっと考え付きもしていないだろう。それなのに何故、と七海が問うと、五条は『んー、』と少しだけ渋りながら中身の少なくなったグラスを手の中で遊ばせる。
『僕さあ、審神者のこと嫌いなんだよね』
そして吐き出された言葉は、七海が予想だにしていなかったもので。カウンターの向こう、並べられた多種多様のアルコール類へ向けていた視線を顔ごと五条へ向けてしまうほどの衝撃だった。
『…………はっ?』
『いや、驚きすぎじゃね?』
『え、幻聴ですか?』
『なんでそうなるんだよ』
ウケるわ、とサングラス奥の眼を細めて一人笑う五条を、未だ衝撃が抜け切らない七海は信じられないものを見るような目付きで見てしまう。
七海がそんな態度を取ってしまうのも、学生時代の五条と審神者を見ていれば仕方のないことだった。審神者が五条をどう思っていたかはついぞわからなかったが、その逆、つまりは五条が審神者をどう思っていたかは審神者以外の生徒達が知っていた。随分と気にかけていたようであったし、事ある毎に審神者の元へ行っていたようだし、てっきり——そこまで思ったところで、七海はハタと気づいてしまった。
五条が審神者に対してどういった感情を持って接していたか。それを本人の口から聞いていないことに。もしかして自分を含めた誰もが勝手にそういうものだと決め付けていたのではないかという事実に。
しかし、それはそれで疑問が生じる。五条の言葉を鵜呑みにするならば、何故嫌いな人間の呪いを解こうとしているのか?
普段表情の変化が乏しい七海の、珍しく感情が読み取りやすい反応を見た五条だったが、これまた珍しいことにそこに触れることはなく、審神者を嫌う理由を告げる。
『生きている間は、名字家のために。死んでからはその魂を付喪神達のために。アイツが高専に入学してきた当初、そんな感じだったじゃん?』
『そうでしたね』
『アイツの全部が他人に決めつけられてんのに、その事に何の疑いもなく従っててさ。馬鹿みたいじゃんってさ』
まあ、僕らの涙ぐましい努力のおかげで、生き方については考えを変えさせたけどさ。テーブルにだらしなく頬を付けて呻く様に、この人本当に酔ってないんだよなと疑ってしまう。それでなければ、余程思い悩んでいるのだろうか。こんな風に気持ちを吐き出すなんて。
『でも、アイツは未だに自分の魂は神達のものだと思ってる。そのために誰にも自分の名前を呼ばれることなく、自身すら自分の名前を知ることなく、今もヘラヘラと生きている』
〝審神者〟なんて変なお役目の名前で呼ばれるなんて、そんなのポチとかタマとかと呼ばれるのと何が違うんだ——気に喰わない。
『だから僕は、審神者が嫌いなんだ』
そう吐き捨てる五条の声音は、辛辣な言葉とは裏腹に存外やわらかいものだった。心配と少しの寂しさと、あとは彼女を想う気持ちとが入り交じったそれを聞いて、七海は嘆息をひとつ。
『…——で、貴方は彼女の呪いを解いてどうしたいんですか?』
恐らくはもう、五条のこの企てを聞いてしまった時点で巻き込まれるのは必至だ。それならば本当の目的を聞いても問題はないだろう、そう判断した七海は問う。
『……なんてことはない、アイツの名前を呼びたいだけ。審神者じゃないアイツと、一緒に居たいだけだよ』
それに、目的が一致しているのであれば。断る理由などないだろう。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
未だ脇差の付喪神と談笑している審神者を見つめながら、七海は山姥切へ言葉を投げる。
「今の審神者——彼女にのみ忠誠を誓うということは、その後に産まれてくる審神者に対してはどうされるおつもりで?」
「何だ、そんなことか。呼びかけには応じない、加護を与えることも無い。極となった刀剣男士は、未来永劫、主の魂から離れることはない。呪霊と戦うのも今世限りだ」
「人からの信仰が無ければ、貴殿達は付喪神としての形を保てないのでは?」
「問題は無い。主がいないこの世界に用はないからな。他人から忘れ去られようとも、主からの信仰さえあれば俺達は存在していられる」
いっその事清々しいほどの執着に、七海はサングラス奥の眼を細める。
「……何故、そこまでして彼女に? 過去の審神者達と、彼女とでは何が違うんです?」
聞かずにはいられなかった。幾十もの付喪神が、何をもって一人の人間にそこまで執着をするのか。これは五条の企みを聞いたからではなく、学生時代からの疑問でもあった。
この問答の中に、解呪への手掛かりを見つけられないかという打算ももちろん含まれている。それでも七海建人個人が気になっていたからという理由の方が大きかった。卒業と同時に呪術師の道から外れた自分が聞くべきではないと、当時の自分はそこまで審神者に踏み込むことはしなかった。しかし、今は違う。自分は呪術師で、審神者も呪術師として戻ってきたのだ。今なら聞いてもいい立場にいるだろうと踏んで、これまで避けてきた深いところに一歩踏み込んだ。
脇差の神のように、殺気を飛ばされるだろうか——その懸念は杞憂で終わることになる。
七海の問いに対し、打刀の付喪神、山姥切国広はとろりと目を蕩けさせ、わらったのだ。
「決まっている。〝アレ〟の魂も、湧き出る呪力も、とても美味そうだからだ」
だから皆で手塩にかけて、大事に、大事に、俺達好みになるよう育てあげたのだ。七年間こちら側に引きこもってくれたおかげで、それはより甘いものに仕上がっている。
「自分達で愛情を注いで育ち熟れたものを、自分達が喰らうのは当然の事だろう?」
当たり前のように告げる神に、七海は賛同することも否定することもできずただただ言葉を失っていた。
「今でさえあんなにも美味そうなんだ。そこに真名が加われば、主の魂はようやく完成される。それはもう至高のものとなるだろうな」
「……貴殿達は、彼女と未来永劫共に居るはずだったのでは?」
辛うじて出せた言葉は、言い知れぬ恐怖と内から込み上げてくる怒りに掠れていた。しかしそれを気にも留めていないのだろう。山姥切国広は恍惚とした表情のまま肯定した。
「無論、ずっとずっと共にいる。——主の魂を喰らい、ひとつとなってな」
ここで怒りを爆発させなかったのは、流石七海建人であるというべきだろう。