七海
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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その日、七海建人が入ったパン屋に見覚えのある顔があった。最後に見たのは彼が高専を卒業してからなので八年ほど前になるだろうか、それほどの長い年月会っていなかったにも関わらず、その顔つきは学生の頃とほとんど変わりないように感じられた。
その人は真剣な顔をしながら陳列するパンを見つめ、左手に持つトングをかちかち鳴らしては威嚇している。その姿は何かしらの圧を感じ、もしパンに心があれば怯えそうだな、と比較的どうでもいい事を思いながら、嘆息をひとつ。
「審神者さん」
「ん?」
声をかければ、その視線は七海へと向けられる。見上げてくるきょとりとした顔はサングラスをかけた七海を見て、頭に疑問符を浮かべているように見えた。
「ええと……どこかでお会いしました?」
審神者のことを審神者と呼ぶ人間は限られている。だからこそ馴染みのない人からその呼称を呼ばれたことに、審神者はさも不思議そうにしていた。対する七海も、学生時代の頃の自分と今の自分の外見の違いから、審神者の反応も仕方ないものだと割り切った。当時は髪も長かったし、目元を隠すものも身に着けていなかった。服すら真っ黒だったのだ。恐らく審神者の中の〝七海建人〟はあの頃のままで止まっているのだろう……割り切ったものの、少しだけ残念だと思った気持ちは胸の奥に隠した。
「失礼。私は、」
「主さん! 僕と兄弟はもう選び終わりましたよ!」
突然声をかけた事を詫び、改めて名乗ろうとした七海の声に、明るい声が被せられた。と同時に七海の視界から審神者を隠すように二人の間に入り込んできた少年の姿。その顔に、七海は覚えがあった。
「僕お腹空いちゃいました。早くレジ済ませましょう」
審神者には笑顔を浮かべているのだろうが、その背から七海に対して発せられるのは紛れもない警戒心と僅かな殺気だった。主を守るが故の行動なのだろうが、随分とまあ顕著に圧を向けてくるものだ。この少年——いや、神も自分のことを覚えていないのだろうか、覚えていてこの反応なのか判断しかねていたところで、近付いてきたもう一つの声がこの均衡を破った。
「あんた……七海建人か?」
「ええ。お久しぶりですね、山姥切国広殿」
「えっ!? 七海先輩!?」
やっと話が進みそうだと、七海は嘆息を吐いた。
「まさか七海先輩との再会場所がパン屋さんだなんて」
ちょっと笑っちゃいますね、と微笑む審神者に、七海も同意した。
あれからそれぞれ好みのパンを選んだ一同は、せっかくだから店先のテラスで食べていこうという話になり飲み物も追加購入し、席に着いていた。審神者の向かいに七海が、両隣を彼女の付喪神達が座ることで落ち着き、審神者を中心に会話は進んでいく。会話の傍らに食べるパンやカフェオレ、コーヒー、紅茶はそれぞれの口にあったようで、二人と二振りの醸し出す空気は晴れた午後に相応しい爽やかさと穏やかさを含んでいた。
「今日の近侍は国広兄弟なんですね。確か兄弟刀はもう一振いましたか?」
「山伏は、他の男士と本丸の裏山に修行しに行ってますよー」
「……貴女の領域は屋敷だけじゃありませんでしたか?」
「拡張しました!」
刀剣に宿る付喪神達を降霊し、協力してくれる男士の数を増やすのと同時に、屋敷やその周辺の彼らが行動出来る範囲を増やしたのだという。正直に言って審神者が何を言っているのか把握し切れなかった七海ではあったが、とりあえず彼女の領域の外には出ていない事はわかったのでそれで良しとした。
「今日は、堀川にお詫びをしようと思って顕現させたんです。以前酷な事をさせてしまったので」
「はい! 酷いことされました!」
「ほんとごめんね! そうしたら現世のパン屋に行ってみたいと言われたので連れてきたってわけなんですよ」
「……山姥切殿。これは掘り下げて聞いてもいいやつですか?」
「どちらでもいいと思うぞ」
学生の頃から何かと話のネタが尽きない審神者ではあったが、それは大人になった今でも特に変わらないらしい。ペラペラとなんでもないように話す事柄が第三者から聞くととんでもない事だったりするのは、審神者と会話をする上で常である。だから、七海は昔から話半分に聞くことにしている。そうすれば自身の中でキャパシティがオーバーすることが減ったからだ。審神者と同期の伊地知や、七海のかつての旧友は、毎回驚いては騒いでいたが。
七海の同期と、一学年下の審神者達が共に過ごした期間は余りにも短い。それでも確かに審神者は彼に懐いていたし、彼は彼で審神者の事をいたく気に入っていた。
込み上げてくる懐かしい記憶を隅に追いやるようにサングラスの位置を直した七海は、言葉を交わす審神者と神を一瞥しつつも敢えて掘り下げて聞くのは止めた。その代わりに、「それにしても」と先程質問をしたもう一方の神へ矛先を変えた。
「私の記憶にある貴殿は、頭からフードが外せないほどの内気な性格だったと思うのですが」
七海が審神者と任務をこなしていた時、山姥切国広はよく部隊に組み込まれていた。故に七海の事を審神者よりも早く気が付いた山姥切であったし、かつての神との変化に気づいた七海であった。
今の山姥切国広は、惜しげも無くその綺麗な顔を曝し以前よりもどこか自信に満ちているような気配がするのだ。それを本人に聞いてみたわけであるが、山姥切はやはり自信満々に、ハキハキとした物言いで告げる。「今の俺は、〝極〟となり主だけの刀になったからな」と。
「極?」
「ああ。」
刀剣男士達は、まだ付喪神として生まれる前の刀剣としての記憶を持っている。その頃自分達を扱ってきたかつての持ち主達や、名字家の初代から三代目までの審神者達。言うなれば、彼らが主と呼ぶ人間は幾人も存在していた。現に、過去の主に気持ちが引っ張られている者も少なくない。現審神者を当代の主として認識しているだけという男士もいる。
しかし、〝極〟となった男士達は違うのだと、山姥切は言う。現審神者を唯一の主として認め、また審神者からも認められる事で新たな縛りを結び、信頼という絆をより強固なものにした事により、以前より強さが増したのだと言うのだ。
「過去に囚われず、今の俺を確りと見てくれる主を絶対として忠誠を誓う。だからか、以前のように卑屈になる事はぐっと減ったんだ」
「彼女を、絶対唯一として……ですか」
「ああ。」と頷くその表情は、成程確かに、七海の記憶にある自信なさげなものとは明らかに違っていた。
「貴殿のように、極となった男士は多いのですか?」
「まだ三割程度だな。だが俺達国広の刀派は三振とも極となったし、粟田口派も殆どがそうだ。全員が変わるのも時間の問題だろう」
「……そうですか。それはとても——」
素直な者が聴けば、審神者と付喪神達の関係がより良いものになったと感動すら覚える話だ。だが生憎と、七海は——というより恐らく、ほとんどの呪術師はそうではない。
『審神者さんの呪いを解く?』
『そう。』
特に、五条の企みを聞いてしまっている七海は。その話を聞いてただただ危険だと思ってしまうのだった。
「——とても、心強いですね」
——これは、思っていたよりややこしい事態になってますよ。五条さん。