家入、伊地知
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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「しょこ先輩、お久しぶりです」
「おう、随分遅い挨拶だな? 戻ってきたかと思えば即寝落ちたもんなあ」
「うう……ごめんなさいどうしても気になる事があったので……」
「はは、いいよいいよ。」
審神者が目覚め、リハビリをして三ヶ月。一頻り動けるようになったところで高専に向かっていたところ一年生らの少年院での任務にたまたま遭遇、両面宿儺との邂逅を果たし、怪我をした伏黒と器の少年の遺体と共に、迎えに来た補助監督の車に同行させてもらい、その車の中で寝落ちた。
それから翌日の、五条の家で目覚めるまで寝通しだったため、審神者が夜蛾正道や家入硝子といったかつての顔馴染みと話せる時間が作れたのはやっと今日になってからだった。
「伊地知も物足りなそうにしてたぞ」
「あー……確かに車に乗り込んですぐ寝ちゃったからなあ」
「あとで会いに行ってやれ。たった二人の同期なんだ」
「もちろん。」
学生時代の同級生・伊地知潔高と再会を果たしたのも皆と等しく七年ぶりだった。伏黒を迎えに来た補助監督というのが伊地知だったため、家入よりほんの少しだけ会話が出来た覚えがある。
『さ、審神者さん……!?』
『はろー伊地知くん。ただいま』
『はあ…——おかえりなさい。無事に目覚めて何よりです』
言葉数こそ少なかったものの、そこは学生時代共に過ごした仲というもの。審神者は伊地知が無事に生きてくれていたことを、伊地知は審神者が無事に現世に戻ってきてくれたことを互いに喜びあった。車の後部座席にボロボロの生徒達が居たので、二人が顔に出すことはしなかったが。
「これから高専にお世話になることになりました。あまり学校や生徒達には関わらないと思うけど」
「悟から聞いてる。たまの臨時講師で、あとは呪術師として任務を熟していくんだろ?」
「はい。」
五条と話した結果、審神者の所在は高専で預かることになった。
理由は先日審神者が伏黒に説明していたように、高専であれば十分な結界が張られているからに他ならない。ここであれば学生時代のように一人で就寝しても問題は無いし、万が一にも何かあった際には第二の守り人となった伏黒が近くに居るから、ということで落ち着いた。現在の学長である夜蛾からの許可は得ているし、女子寮にも部屋の空きはある。同じ結界内であれば生徒達の使う寮ではなく社員寮に行くべきでは? という審神者の疑問は、五条の『少しでも恵に近い方がいいでしょ』と言われたことで有耶無耶にされてしまった。ここで審神者も「そういうもんか」と流されたことが大きい。
『僕の家にこのまま住んでもいいって思ったんだけどね。皆に引っ張りだこの大人気特級呪術師なもんで、家を空けることが多いから』
『大変ですねえ』
『めっちゃ他人事じゃん(笑)』
ちなみに、審神者の実家に身を置くという案は二人から終ぞ挙がることはなかった。それに対して、審神者と名字家の事情を知る者が改めて突っ込んで聞くことは無い。
「それにしても、神は伏黒を守り人に選んだか。はてさて、どこまで知ってるんだか」
「えっ、あの子何かあるんです?」
「……」
「えっ、あれ、しょこ先輩?」
「審神者お前、伏黒の事をどこまで聞いてる?」
「えーっと……」
そこで審神者は、伏黒本人から受けた自己紹介を思い返す。伏黒恵、高専一年、術式は影を操る『十種影法術』……これくらいですかね? と首を傾ける審神者はやっぱりあまり理解していないようで、家入はこれ見よがしに溜め息を吐く。
術式を聞いてピンと来ない審神者も審神者だが、説明足らずな伏黒も伏黒だと呆れたのだ。……いや、全部わかってて事前に説明していない五条も五条か。
「審神者、呪術界の御三家のことは覚えてるか?」
「ごじょ先輩の五条家、真希ちゃんの居る禅院家、あと加茂家でしたっけ」
「ああ。んで、それぞれの家の秘伝相術は?」
「しょこ先輩、先生みたい」
「いーから答える」
「あい」
五条家は『無下限術式』と『六眼』、禅院家は『十種影法術』……あっ。
そこまで言って、ようやく頭の中で繋がったのか審神者が驚いた顔で家入を見る。家入が頷いた事で確信に変わり、そして同時に納得した。
審神者が伏黒と初めて会った時、漠然と感じた強さがあった。それがまさか、御三家の秘伝相術を受け継いでいるからだとは思わなかったが、きっとそれも含めた強さを感じ取ったのだろう。審神者はそう結論付けることにした。
——それにしても、ごじょ先輩がいる時代に、十種影法術の術式を持つ人間が産まれてくるなんて。これも廻り合せなのかなあ。
ふんふんと熟考する審神者を、家入は椅子に備わっている腕置きに頬杖をつきじっと見つめていた。
家入が高専を卒業し、二年で医師免許を取得し高専へ戻った四月、審神者の代の生徒達は丁度卒業を終えた直後だった。あと一月早く学校に顔を出していれば会えたのにな、と表には出さず残念がる家入に、五条は言ったのだ。『審神者は暫く現世からいなくなる』と。
最初は何言ってんだコイツと五条の頭を心配したが、よくよく聞いてみるとどうやら審神者は審神者で名字家とやりあったのだそうだ。その結果、審神者は神達の居る自らの生得領域に引き篭ったのだとか。
『馬鹿なのか?』
『馬鹿なんだよアイツ』
呆れたようにそう言いつつも、五条の表情はどこか誇らしげだった。ほんの少しの寂しさも感じ取れたが、それに勝る感情があるようだった。
心当たりはある。五条も名字も何かと面倒臭い家だ、昔からのしきたりや風習、柵が山のようにあり、その家の者を雁字搦めにする。しかもそこに待ちに待った『無下限術式と六眼を併せ持つ』男と、『審神者の力』を持つ女が産まれ落ちた。それぞれの家の人間達がどうするかなんて、一般家庭に生まれた家入にも想像に容易かった。
似た境遇を経てきた審神者に、五条は自分の姿を見たのかもしれない。実際学生時代、憎まれ口を叩きながらも審神者の事を気にしていたことを、家入は知っていた。だからこそ、自分と同じように家の言いなりになることなく自分で自分の道を決めた審神者を、五条は喜んだのかもしれない。
『ま、どうせ半年とか一年で帰ってくんだろ』
五条がぼやいたその予想を遥かに裏切り、実に七年という年月が経ったわけだが。なかなか帰ってくる様子が見られない審神者に、苛立ちとそれとない心配で変な顔になっていた五条といったら。
思い出し笑いをする家入に「どうしました?」と首を傾ける審神者にチクってやろうかとも思ったが、ここは同期の顔を立ててやるとしよう……珍しく気遣いが働いた家入は、「何でもない」と首を横に振ったのだった。
「どうして〝伏黒〟と名乗っているかは、聞かないのか?」
「まあ、そこら辺は込み入った話なんでしょうし。本人から聞く話ですしね」
気長に待つことにします。と微笑んだ審神者に、本当に御三家のあれこれに興味が無いんだなあと再認識した家入は、それならばと話題を変えることにする。審神者の言うように自分から話す内容ではないし、積もる話はまだまだある。時間は有限なのだ。
「ちょっと硝子、隈酷すぎ。ちゃんと寝てんの?」
「最近ちょっと忙しくてな」
「だからって睡眠はちゃんと取らないとダメだろー? ……でもまあ、煙草はやめたみたいだしいいけどさ」
それからは、顕現された加州清光を加えた二人と一振で話に花を咲かせていた。二人がまだ学生だった頃、仲良くなるきっかけを作ってくれたのが加州であり、家入と一番親交のある男士でもあった。審神者の領域の中から久方ぶりに見た家入に一言物申したくて、審神者に自分を顕現させるよう言い付けたのである。
学生時代、二人は数少ない女子生徒という事もあり互いの事が気になってはいた。しかし三年生と一年生、寮が同じとはいえなかなか話す口実も無くどうしたものかと思っていた時、加州が審神者を焚き付けたのだ。というより審神者そっちのけで家入に声をかけたのだ。『お前、どこの化粧水使ってんの?』と。この時の家入と審神者の呆気に取られた顔は、未だ加州の中でツボである。
始まりがそんなだった所為か、家入と加州の関係は女友達のそれである。今回加州が顕現されたのも、加州が家入の顔色の悪さに物申したかったが故だった。
「まったく、人使い荒いんじゃないの呪術師って。主大丈夫なの?」
「今まで引き篭ってた分頑張りますねしょこ先輩……!」
「おう。期待してるよ」
家入の隈を指で撫でる加州、その頭を優しく撫でている家入の姿を微笑ましげに見つめていた審神者だったが、加州のその一言でしゃきっと背筋を伸ばし声を張る。そんな後輩に、家入は軽いエールを送った。
「とはいえ、祓う事に関しては成長したと思うんですが……やっぱり反転術式は男士達にしか使えないんですよねえ」
先輩からのエールにやる気を貰った審神者だったが、と思えば申し訳なさそうにしゅんと肩を落とす。
家入のように、反転術式を用いて他者の治療に当たる事が出来る呪術師は極めて希少だ。あの五条でさえも自分自身にしか扱えないもの・と言えばその術式の難しさがよくわかるだろう。
それを、審神者も扱えないことは無かった。但しこちらも対象に限定があり、刀剣男士達に対してのみ使えるものであった。
「人間相手に『手入れ』は難しいか」
「はい……なんかこう、勝手が違うみたいで」
「主、本丸にいる間自分で自分のこと傷付けてたんだよ?」
「は?」
「だ、だって誰にも会えないから練習できなかったんだもん!」
元を辿れば、当然の事なのかもしれない。名字家は人の命より刀剣を優先し愛している家系だ。その刀剣達に何かあった場合、何がなんでも元通りにしようと躍起になっていた事だってあるだろう。審神者はその血筋の生まれで、かつ力を持った〝審神者〟である。その力は刀剣達のためにあるようなものなので、手入れと称し男士達の怪我を、傷付いた刀剣を治すことが誰に教わるでもなく、昔から出来ていた。
しかしそれが人間相手となると話は別になるらしい。怪我を負った他者はもちろん、自分が負った怪我ですら治すことは七年かけても出来なかったようだ。
「はあ……全くお前は」
「いたっ!?」
「無茶をするな、馬鹿」
加州から事のあらましを聞いた家入が、溜め息を吐きながら審神者の額を小突く。なかなか容赦のないデコピンを喰らった審神者は痛みに蹲り、そんな審神者を家入と加州はまるでしょうがない子を見るような目で見下ろすのだった。
「こんな主だけどさ、確かに成長したところもあるんだよ?」
そんな、ほのぼのとした空気が変わったのは、加州がそう言ってからだ。
「使役できる神の数が増えたことか? それなら悟から聞いてるぞ」
「いやいや、そうじゃなくて」
意味深に笑みを浮かべる加州はそのまま家入の背後に回り込み、肩に手を置く。何を、と訝しげに眉を寄せた家入が振り返ろうとしたのを手に込めた力の強さで制し、加州は審神者を呼んだ。
「ほらほら主ぃ、硝子に見せてあげるんでしょ」
「あ、そうだった。〝誰〟がいいと思う?」
「短刀か脇差がいいんじゃない?」
「そっか。うーんそれじゃあね……」
「……おい、お前ら何を話してる」
自分を置いて話を進めていく一人と一振の意図が読めず、また直感的に嫌な予感を感じ取った家入は、自然と低くなる声のまま相手に問う。その問いに答えたのは後ろにいる付喪神で、加州は家入の耳元に顔を寄せる。「まあ、黙って見てなよ」と。
その声音は、愉快そうな音を含んでいた。
「うん、決めた。——おいで、〝堀川国広〟」
そうこうしている内に、審神者がある一振の名を紡いだ。
するとどうだろう。加州のように顕現されるわけではなく、審神者の手に一振の刀が現れた。それは脇差程の長さで、急に出現したそれに家入は驚く。しかし、驚くのはそれだけではなかった。
「……一体、どういう事だ」
閉じていた目を開けた審神者の瞳の色が、空色に輝いていた。五条の青色とはまた違うその色に、何故かおそろしさを感じてしまう。
驚愕する家入を見て、審神者はにこりと笑いかける。なんて事ないように、「今、わたしの身体に堀川国広を降ろしました」と。
「こうやって降ろす事で、一時的に彼らの力を借りられるようになったんです」
ひとつの身体に二つの意識が入り込んだ状態なのだという。この状態の時、身体的特徴として降ろした神の髪色と瞳の色になるのだと。あくまで力のみを借りるので、意識が乗っ取られることはないのだと。信じ難い事を平然と言って退けるのだ、この審神者という女は。
「わたしが手入れできるのは、刀剣男士だけ。でも、この状態が保てるようになった時ふと思ったんですよ。人と男士が入り込んだこの身体に、手入れは有効なのかなって」
「……おい、やめろ」
審神者の言葉と光を反射させながら現れた刀身に、いよいよ不味いと家入が止めようとする。しかし耳に届いている筈の声は無視され、審神者はその抜き身の刃を己の腕に持っていき。
「審神者!!」
あろうことか審神者は、自分自身でその腕に刃を突き刺したのだ。
深く貫通した刀身を抜くと、空いた穴からどばっと鮮血が溢れてくる。途端部屋の中に噎せ返る鉄の臭い、床に広がる赤に家入が思わず目を逸らそうとするも、加州に顎を掴まれ無理矢理正面を向かされる。
「言ったろ。黙って見てろって」
耳に直接吹き込まれる声は低く、温度も感情すらも感じられないそれにゾッとする。その声に逆らえばどうなるかわからない家入ではない。神の言うままに審神者へ視線を向けるしかなく、微かに舌を打ったあとに言葉に従った。
家入が自分へ視線を向けた事を確認してから、審神者はつい今し方自分がつけた傷へ手を添える。そして普段、男士達の傷を治す要領でそこに呪力を込めると、みるみる内にその傷が塞がっていった。
驚きに目を開く家入を見ながら、青い瞳を持った女があっけらかんと答える。
「今の状態だと、どうやら男士達と同じ枠組みにされるみたいで自分にも反転術式が使えるんですよー。使役できる男士達が増えたことと、自分の身体に降ろせるようになったこと、あとこれ。これで戦術の幅が広がったかなって思うんですよ!」
だからこれからは、呪術師として頑張りますね! 笑顔で抱負を述べる審神者に、家入は恐怖にも似た感情を抱く。
だんだん人間離れしていることに気付いてないのかとか、身体が完全に乗っ取られたらどうするんだとか。幾ら見せるためとはいえ怪我の実演をするなとか、いろいろ言いたい事があるけれど。
「……審神者お前、」
「はい?」
「——良かったな。呪術師向いてるぞ」
自分が思っていた以上にしっかりイカレていた後輩に、家入はそう言う以外何を言えばいいのかわからなかった。
「あ、しょこ先輩。今のはごじょ先輩に内緒でお願いします」
「何でまた」
「あとでビックリさせようと思ってるんで!」
「……」
ビックリというか真っ青→ブチ切れコースになるだろうよ。と教えるのはやめておいた。驚かされた家入なりの意趣返しである。
「口止め料寄越しな」
「お煙草です?」
「いや、酒。今夜飲みに付き合え」
「女子会ってやつですか!? わあい楽しみ!」