審神者とは特級被呪者に分類されます。
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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釘崎を連れて去っていく伊地知さんの車を見送り、心配を振り切るように踵を返す。
眼前にあるのは一見普通の少年院。だがその内部は違う世界と繋がっている。一度は逃れてきたそこから、今度はそこに取り残してきたクラスメイトの安否を確かめに行く。
——…逃げてきた。そう、自分は逃げてきたのだ。あの特級から、つい先日まで非術師だった男を置いておめおめと。
三人の中では、自分が一番階級が上だった。ともすれば立場的に一番強いのは自分の筈で、恐らくは呪霊と対峙する回数だって一番多かった筈。例え虎杖が特級呪物の器としての適応があるとはいえ、言ってしまえばそれだけだ。あいつは両面宿儺を屈服させたわけでも無ければ、いつ身体を乗っ取られるかわからない、天秤の左右を行ったり来たりしている状態なのだ。もしここに発生した特級呪霊と宿儺が手を組んだりしたら、虎杖の命はまず無い。
だからこそ、戻らねばならないのだ。
虎杖が器となったあの夜から今日まで、生き長らえたきっかけを作ったのは自分の私情でしかない。であるならば、責任を取るのは自分でなければならないのだ。
例え勝てないとわかっていても、死ぬと決まっていても。
拳を握り締め、先程出てきた出入口までの距離を詰めようと駆け出そうとした少年は。
「や。待たせたね少年」
「っ!?」
突如真横から聞こえた聞き覚えのない声に、反射的に踏み出した足を前ではなく横へ向け弾かれたように跳んだ。
声の主とは反対方向へ跳び距離をとり、直ぐに体勢を整え両手を構える姿は流石というべきか。警戒心バリバリで構えたままこちらを睨む少年に、声の主は感嘆の声をあげつつも不貞腐れたように片頬を膨らませてみせた。
「ひどいなあ。反応の速さは感心するけど、相手をちゃんと見て判断してほしいな」
「……誰だ。アンタ」
「あ、そうくるか」
少年の反応は正しかった。自分の知らない相手、つまりは現状敵か味方かわからないのだ。距離を置くのも無理はないだろう。
それを直接言われずとも理解したらしい声の主は、自らの発言を撤回するように「確かに、初対面だねわたし達」と言ってからりと笑った。
身体の向きを90度、少年と向き合うように変えたその声の主——黒ずくめの女は、懐から取り出した黒い手帳を開き少年から見えるよう向ける。まるで警察手帳のようなそれには、本人の顔写真と文字が綴られていた。
「見ての通り、君と同業だよ。少年」
写真の下には、名前だろうか初見では読めない漢字三文字が書いてあり、さらにその下には「1級呪術師」と少年のよく知る文字が連なっていた。
「1級……!?」
確かに少年は、補助監督にそれ相当の呪術師を応援で呼ぶよう伝えたが、それにしたって到着が速すぎる。この人は一体どうやってここまで来たのか——それも気になったが、少年は未だにこの人物が本当に味方なのか判断しかねていた。
幼い頃からこちら側の世界に身を置いている少年は、その数の少なさもあり殆どの呪術師を認識している。しかし今目の前に居る人物には、一度だって出会ったことがなかった。単に忘れている、記憶違いという線も否めないものの、それにしたって〝1級〟ともなれば名前くらい聞いたり目にすることがある筈。であるにも関わらず、少年は今提示されている名前を見たことすらなかったのだ。疑ってしまうのも無理はなかった。
もしかしたら、呪術師を騙った呪詛師かもしれない。そう思い警戒を強める少年とは反対に、雑な自己紹介を終えた女は一人満足して建物へと足を進めていく。その行動にぎょっとした少年が声をかけようとしたところで、ふたつの影が跳んできた。
「ただいま! 主さん」
「戻ったぜ、大将」
その影は、一見すると高校生の少年よりも幼い少年少女だった。似通った紺の軍服——一方はスカート、一方は半ズボンであることから、少年少女と判断した——に、腰には刀。まだ子供と呼べる背格好の二人は、女の元へ軽やかに着地しては女に報告を始めた。
「建物の外からじゃ、中の様子は特に変わりなかったぜ。恐らく領域が展開されてるんだろ」
「特級の気配はまだふたつあるよ。仲良くやりあってるみたい」
「偵察ありがとう。薬研、乱。どっちが勝つと思う?」
「主」「大将」と違う呼び方をされている女は、二人の頭を撫でつつも不敵な笑みを浮かべて少年少女にそう問いかける。その問いかけに薬研、乱と呼ばれた二人はきょとりと顔を見合わせてから、愚問だとばかりに「そりゃ、両面宿儺でしょ」と声を揃える。
「残念だが大将、呪いの王との戦いは避けられねえぜ」
「ええー、やだなあ」
「でも、わざわざ戦う必要ないんでしょ? 命令が下ったわけじゃないんだし」
「そりゃそうだが、あちらさんが黙って逃がしてくれるとは思えねえな」
乱のフォローもばっさり切り伏せた薬研は、項垂れる女を見てニヤニヤと口角をあげている。場にそぐわないその愉快そうな笑みを受けて、女ははあと一つ息を落とした。
「可愛い後輩が困ってそうだからって、来るんじゃなかった」
どうやら、腹を括ったようだ。その言葉を最後に、女の纏う空気がピンと張り詰めたものに変わる。
「それではこちらも、万全の準備をしていきましょうか」
そしておもむろに両腕をそれぞれ左右に広げたかと思いきや、まるで手品のようにその腕から出現したソレが空を滑り、ガチャッ、ザシャッと地面に突き刺さる。
それは、四本の多種多様な刀剣だった。
「——〝燭台切光忠〟〝へし切長谷部〟〝石切丸〟〝御手杵〟」
そして女が言葉を紡ぐと、刀剣は淡い光に包まれ徐々にかたちを変えていき、やがてはヒトの姿となる。
暦は六月だというに、辺りに桜の花弁が舞った。
「それから、わたしのお供として〝鶴丸国永〟を。——〝薬研藤四郎〟〝乱藤四郎〟と合わせ、以上七振を第一部隊に任命します」
そう命を下した女の腰には、いつの間にか白い刀が帯刀されており。髪は黒から白に、瞳は黒から金へと色を変えていた。
薬研、乱が現れてからというものの、いや、正確に言えば女が現れてからというものの。少年はまるで白昼夢でも見ているような、狐に化かされているかのような、そんな心地でいた。普段冷静で頭の切れる少年は、この時ばかりは目の前で次々と起こる事象に着いていけずにその場に立ち尽くしていた。
——一体、何がどうなってんだ。
少年が取り残されている間にも、女は突如現れた男達へ指示を出し、自らも抜刀しつつ建物の中へ入ろうとする。
その最後の一歩を踏み出す手前、女の双眸が久方振りに少年を捉えた。
「さ。行くよ少年」
どうやら自分も数に入っているらしい。「少年には薬研をつけるから安心してね」と見当違いな事を言われるが、少年の思考は未だ緩慢としたままで。
「——アンタ、何者だ?」
頭に浮かんだ言葉を、そのまま口にした。
少年の様子に気付いたのだろう。いろいろ言葉足らずだったなと今更ながらに反省をした女は、苦笑を浮かべ少年に向き直る。
「わたしは、審神者だよ。少年」
女に言われて漸く、あの漢字三文字の読み方を知った少年……伏黒恵は、「さにわ、」と自らの舌に乗せてみる。
すると不思議な事に、さっきまで夢現だった思考が急に晴れていくような感覚がしたのだった。