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『美女と野獣』

6
「大丈夫。私は貴方のことを嫌いにはならないよ。……だって見た目が変わってもどんなに時が経とうと、私の知る貴方はいつだって変わらず優しい心を持っているから」
「え……?」
今度は男が首を傾げる番だった。男が微笑む少女の言葉を理解する前に少女は無理やりその腕に大事な書物を預けると、ブーツの底を静かに鳴らして赤い花の前に佇む。痛っと言いながら花を摘むとしゃがんだままの男の元へと持ち運び、彼の顔の前に差し出した。花のくきには小さいながらトゲが生えていたらしく、本人は大して気にしていない様子だが少女の指先にはぷくりと赤い点が浮かび上がっていた。
「血が……」
「へーきだよ。それより、私の手を握って」
言われるがまま少女の背丈に合わせて屈み、花持つ少女のガラス細工のような手を包むように自分の手を重ねた。目と目の距離が近くなる。少女の手は思うよりも小さく、柔らかく、そして温かかった。その手は自分の温度と鼓動で溶けてしまいそうだ、とよくわからないことを思い浮かべ表情に出せない心の火照りをごまかそうとした。が、少女は躊躇いなく男の顔にぐっと近づけて、彼が驚くよりも先にその口に重ねた。

――えっ?

頭が真っ白になる、とはよく言うが、今まさにその状況だった。何が起きたのかと事態を飲み込もうとするが、少女の髪の香りが、甘い味が、鼻に残って脳みそを使いものさせてくれない。そうこうしている間に少女は顔を離し、男の鈍った感性に答えるように少女はポツリポツリと口を開く。
「私には好きな人がいたの。その人は私の住んでいた小さな村で誰よりも目立たなくて自分に自信もないけど人だった。でも私にとっては何よりも大切な人だったんだ」
ゆっくりと語る少女に合わせて、花は淡く輝き出す。
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