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『美女と野獣』

2
少女の話す『真実の花』の結末はこうだ。
――やがて、真実の花を見つけた王子は涙を流しながら、その花を手に取り花びらにそっと口づけを落とした。すると王子の体が優しい光に包まれ、光が収まり鏡に映った自分の姿を見て、王子は天を仰いだ。その場にいたのは醜い化物などではなく、人間の形をした青年の自分だったのだ。魔女の呪いの解けた王子はすぐに祖国に帰り、平和に暮らしたとさ――。

少女は本気で真実の花があるものと信じているのか、この伝承を男に読み聞かせると「貴方を元の姿に戻すよ」と言った。伝承の王子と彼の境遇を重ねているのだろうか。一方の男はと言うと、少女とは逆にどうせただのしがない伝承の一つとしか思えず一切信じてはいなかった。
考えも体格もまるで月とすっぽんかと思うほどに異なる、言ってしまえば不釣り合いな二人が何故共に旅をしているのか。道行く人にそれを尋ねられた時男は苦く笑いながら「俺にもわからない」と答えた。
その言葉に嘘はない。見目麗しい少女がどうして醜い自分を旅に同行してまで助けようとするのか、その真意は少女にしかわからない。
それでも少女と旅を続けるのは、男には『旅する目的などない』からだ。元々流浪の身だ、夢見がちな乙女の夢に付き合ってやるのも悪くない。他にも付け加えた理由などいくらでも浮かぶだろうが、現状に近いのはその言葉だろう。
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