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『美女と野獣』

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『世界は不思議に包まれている』。それが少女の愛読する古い書物の一行目だった。人語を話す犬、機械に埋もれた未来都市、世界を欺く勇者など、まだ見ぬ世界に散らばった伝説や民話がごまんと記載されたその書物は魔導士の少女の心をいつも熱く躍らせた。
そのありとあらゆる物語の中でも特に少女の胸を躍らせるのは、何処で語られていたのかも綴った人物も不明な『真実の花』という伝承。――主人公は美しい顔立ちが自慢のとある国の王子様で、ある日晩餐会に訪れた魔女に呪いをかけられてしまい醜い化物に変えられてしまう。王子様は元の美しい姿に戻るため、忘れられた古城に咲く真実の赤い花を求めて旅に出る――。このような筋書きの物語だ。
それを旅の道中で少女は何度も何度も、飽きるほど異形の同行者に熱く読み聞かせていた。ぼんやりと聞き流す同行者の彼に少女は、必ずと言っていいほど添える言葉があった。
「絶対に真実の花を見つけようね」
誰でもない、同行者――醜い獣姿の男に笑いかける。その言葉を聞くと決まって男は深く息を吐いてから微笑み「そうだな」と相槌を打つ。

――これは一つの伝承を信じ、『真実の花』を求めた一人の少女と一人の獣男の真実のお話だ。
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