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『神様、奇跡なんていらないから』


 記憶の片隅で笑うあの子の顔を思い出してしまった僕はその笑顔がまた見たいと思い、棚の奥に隠れていた古いアルバムを引っ張り出す。
 紙魚に喰われ色褪せたの紺の表紙を開くと、見慣れた友人たちの年端も行かぬ幼い顔が並んでいた。小さな村に唯一つある小学校の卒業記念写真集、そこに映る友人たちの顔をなぞってあの子の姿を探してみるが、その姿は見つかるわけもない。案の定とも言うべきだろうか、同級生の中に混じって笑い合っていたなら僕はあの子の名前を知っているはずだ。
 母親に頼み込んで、幼少の僕が映るアルバムを探してもらい頁を捲る。それでもセピアな写真の中で楽しそうに一人ではしゃぐ幼い僕が映るだけで、あの子の笑顔はどこにもない。隣にいた娘が僕の膝に乗って、興味深く小さい僕とにらめっこをしていた。
 窓辺の花が揺れる。
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