このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

『美女と野獣』

7
少女は旅立つ前、小さな村に住んでいた。それこそ、その美しさから村一番の美人だと言われてきたそうだが同時にずっと分厚い本を読んでいる村一番の変人でもあったそうだ。本人は気にしていなかったが、友達のいない少女のそれをネタに蔑ろにされることなどほぼ毎日のことだった。
いつの日か、少女は自分と同じように本ばかり読んでいる少年の存在に気付く。自分のように目立つわけでもなく、いやどちらかといえばかなり目立たない方だろう。伸びっぱなしの前髪は目が隠れるほど長く、顔の見えない少年はいつも暗そうに本ばかり読んでいた。この人とお話しがしたいと思った矢先に声をかけていた。
最初は警戒された、そしてこんな醜い自分には関わらない方がいいと拒絶されたのは覚えている。二度、三度、話しかけているうちに、少年はよく自分のことを否定する人だと気づいた。少女の話に耳を傾けている時は誰よりも優しく頷いてくれるが、自分のことになると暗い表情はさらに強張る。自分に自信が無さすぎるのだ。それでも唯一無二の友達だった彼の、本について話す時の僅かに綻ぶ顔が少女は大好きだった。優しい彼のことが大好きになっていた。少年と話している時間だけが少女の幸せだった。
しかし、その幸せも長くは続かず、ある日少年は突如としてその姿を晦ませた。彼は自分を嫌いすぎるあまり悪魔に魅入られて本当の醜い獣にされてしまったのだという身も蓋もない噂話を耳にする。少女はその噂の真意を確かめるべく村を後にした。昔から魔導の力があったため、旅をするのにそれほど困ることはなかった、と付け加えた。
8/10ページ