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勇カズの与太話

【晴れの町】
 旅の休息にピッタリの美しい町がある、と行商の老人に勧められてたどりついたのは白い石壁の建物が並ぶ町。桃髪おさげの少女が行きたいとわがままを言ったので付き添う形でこの町にやってきた。

 各々が休息を満喫する中で彼はふらりふらりと景観の合間をぬって。白の軒並みに囲まれた坂道をあがり白の階段をのぼって、白い広間までやってくる。
 吹き抜けた風の運ぶ香りはからりとしたしょっぱい磯の色だ。肌にまとわりつくような暑くもさわやかな風はこの町が海の近くにあることを考えずとも教えてくれる。
 真白な家々が織りなす高低差と明暗の彩りは、海にも空にも混じらない強めの青色の屋根をより際立たせる。彼はそこにある景色をのぞんでいた。

――この辺りは昔、山だったんだ。

 誇らしげに船乗りの男が話していたことを思い出す。青々とした大海原が静かに波打っているがどこにも砂浜は見当たらないのはどうやらそのためらしい。
 標高の高い海岸線は町の防衛にもひと役買っているので、平和な町のささやかな自慢なのだそうだ。

 『晴れの町』か。彼はぽそりと口をついた。
 めったに雨の降らない地域であることからそう呼ばれることが多いという話を宿屋の女性がしていた。
 目の前に広がる太陽と海岸線を取り入れた白と青と自然のコントラスト。完成された眺望はちがう『晴れの町』を教えてくれているのかもしれない。

 日が照ってきた。まもなく昼時になるのだろう。
彼はたまらずに羽織っていた上着を一枚ぬいで手に持つこととした。

――常夏ということばを知っているかい?

 町の入り口で門番が白い歯を見せて笑っていたが、なるほど、暑い。この町についてから数日経ってようやく門番のことばを理解した。
 すれちがった店の店主が大仰に売り出していた彩度の高い花柄のシャツはイヤでも買っておくべきだったかもしれない。
 ああ。どこからかウクレレの陽気な歌声が聴こえてきた。『晴れの町』の炎天下を盛り上げているようだ。
彼はひとつ汗をぬぐった。
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