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勇カズの与太話

勇者カズトの冒険 Digress.4
【銃士の憂鬱】

その日は雨が降っていた。
かなり高度の低くなった黒雲から篠突く雨は流石に雨宿りを要求する程だ。この雨では今日一日歩くことは難しい、仕方なくそこにあった洞窟で雨を凌ぎつつ早くも一晩を明かす準備をすることにした。
洞窟は奥に繋がっているが、入り口付近はそれなりに広くモンスターの気配も無かったのでちょうどいい。手早に火の準備を済ませると、少し早いが携帯食料を取り出してちぎって耐熱容器のコップに入れる。こういう時はいやでも体が冷えるからせめてスープでも口にしたかった。
「こういう時こそおいしいコンソメスープとか飲みたいんだけどな」
出来あがった即席のスープを口にして思わずため息が溢れた。苦く笑う。
外は一段と強く降り、気温も下がってきたらしい。今太陽がどこにいるのかなど予測はできないが、洞窟に入ったのは正解だったのだろう。

激しい雨音と自分の心音だけが反響する酷く落ち着いた時間。こういう時はどうしても物思いに耽ってしまう。過去のこと、今のこと、未来のこと…。
そして僕はこの時ようやく自分が冷静ではなかったということに気付いた。妹が忽然と姿を消して、心に穴が開いたようで、知らずと自分を責めて、勝手に他人を疑い敵視していた。
鬱憤を晴らすようにモンスターを倒しまくった時の自分はいったいどんな目をしていたのだろう。
我ながら、かなり取り乱していたのだろうと予想できる。その時ボクはヒトでなかった。
恥ずかしいながら久しく他人の優しさを思い出したのはつい先日だ。先日出会った少女は顔も名前もハッキリしないけど、あの手足の痕を見て可哀想だと思ったことを覚えている。
少女は傷付いたボクを助けてくれた。その時少女にお礼をしたくて、痕を隠すためにとリボンを渡した。渡した、というより一方的にあげたと言った方がいいくらい雑に渡してしまったので、少女の手に渡ったかどうかはわからない。
それでもボクはそこでヒトらしさを思い出したと自負している。

これからは長い旅になるかもしれない。それを考えた時、妹を探す身でありながらこんなことを思うのはいけないだろうけど、楽しい旅にしたいと思った。
また誰かと出会うかもしれない。
綺麗な場所に行くかもしれない。
その一つ一つを楽しんで、いつか妹に会えたらそれを全て伝えてやろうと企んでる……どうしようもない兄だ。
スープは空になった。
また明日、もう一度歩きだそう。
いつまでも嘆いてばかりはいられない。

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