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勇カズの与太話

【救いを求める手】

「ごめん、少しだけこのまま……握っててもいいかな?」
「ん?あ、ああ……」
こういう時ばかり、彼は感情の断片を見せないのは狡い。とレンカは思う。
いつものように明るいその声はハットの影に隠れた感情を見つけることを困難にする。息と感情を殺したその手の温もりに僅かな寂しさを訴えている。

忘れた頃に彼はこうしてレンカの手を取ることがあった。その時は必ず彼の中で何かがあったのだと気づいているから、彼女も何も言わずに手を貸している。
彼は、たまに悪い夢にうなされる時があるのだといつの日か笑って話してくれたことがあった。
夢の内容まで聞くのはさすがに野暮だと思い尋ねたことはないが、芳しくはないのだろう。安直な考えだがそれも彼の垣間見せる弱さに繋がる一つの誘因なのだろう。
ただ、レンカは自分の手がそんなに暖かいのだろうかといつも疑問に思う。

「……そろそろ飯作りたいんだけど」
「……あ、ごめん!ありがとう」
手を離して笑う彼は、いつもの彼だった。人懐っこいながらもどこか冷めてる明るい笑み、もう先程の僅かな影の欠片はどこにもない。
その寂しげな温度が離れた時に、彼はつくづく不器用な人だと思ってしまう。レンカとしては仲間であるうちはもう少し頼ってもいいのではと考えるのだが、どうやら彼は頼ることが苦手のようだと最近わかってきた。
「あのさ」
だからこそ……。レンカは考えつくよりも先に言葉を口にしていた。
「たまには話せよ、仲間だろ?」
だからこそ、彼には仲間として手を差しのべたいと思うのは彼女のどうしようもない性分だ。捻くれ勇者には鼻で笑われるようなお節介な思いやりは一生かかっても治らないだろう。
僅かに目を丸くした後で彼は、ありがとう、と誰もが受け入れる手本の微笑みを浮かべた。
「レンカちゃんはやっぱり優しいね!この優しさ、あの腐れ勇者やクソガキにも見習ってほしいものだ!」
またいつもの彼に戻っていた。
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