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勇カズのコラボSS

 重く鈍い、空を裂く破裂音が耳の横を通り抜けて戦いの火蓋を落とした。遅れて焼けた火薬の臭いが彼の鼻孔を擽る。音の根源である銃の口が青年――ロシェを冷たく睨みつけ、その持ち主の銃士――リオも同じく光の宿らない瞳で彼を睨めつけていた。
「威嚇射撃といったところかな?」
 軽い煽り。対する銃士の彼は小さく舌打ちをして、その場から飛び退く。瞬間を縫うように空間に溶けた透明の切っ先が彼のいた地面を突き刺した。注意深く見ないとわからないであろう氷の刃が地の表面を抉っていた。
「やっぱり魔法使いか」
 彼の恨めしそうな悪態を聞かないフリして青年は笑う。今の氷は彼の繰り出した魔法の一つだ。彼の笑みは戦いの中においても爽やかで、銃士の彼が最も嫌いな類の――所謂「美男子」というものに属される人物であることを裏付けていた。それだけでも充分に彼の神経を逆撫でするのだが、加えて青年は魔法を使うらしいと分かり更なる敵対心を強める。
「まだまだ行くよ」
 笑顔のまま青年が腕を振るうと、キラリと空間に光が煌めき圧縮された水が弾のような形を伴い現れた。命令が下されるより速く水の弾は銃士の元へと放たれ、彼は弾の下に潜るようにそれを避ける。同時に二挺の銃口を躊躇いなく引鉄を引き、その場を退く。
 彼の素晴らしい反射神経に舌を巻きつつ青年は咄嗟に自身の胸前に透き通る液状の球を生み出し放つとそれは一つの弾丸を相殺した。がそれを見越したもう一つの弾丸が青年の右肩を掠め、熱と風に乗せられたそれが青年の衣服と肌身を焦がした。
「はは、なかなかエグいんだね」
 撃ち抜かれた肩を押さえながら青年は吐き捨てた。銃士の放った銃弾の一つは確実に左胸を貫かんとしていた。例えそれが肩に損傷を与えるための囮であったとしても、青年には末恐ろしく思う。

「悪いけど、長期戦は苦手なもんで」
 カチャリと重い金属音が耳元に伝わり慌てて横を見ると、黒い銃口と目が合った。青年は思わず眉を潜め美男子の笑みを歪めた。
 吸い込まれそうな黒い口とハットから垣間見える翡翠の瞳、どちらがより冷酷かを比べたらそれはそれで面白そうだとぼんやり考えたが状況は変わらない。むしろ劣勢のはずだが青年の心は落ち着いていた。一度は歪めた表情に悪意を足して再び弧を描いた。
「俺も長期戦は苦手だ。でもそれ以上にお互い、近接戦は苦手だろう?」
 青年はそう告げると足で軽く地面を叩いた。その軽い合図ですら彼にとって魔法発動の引鉄になり得るということを銃士は知る由もなかった――そして銃士の不意を突くように彼の足元から鋭い冷気が突き刺し頬を掠めた。透明度の高い氷柱の切っ先が幾度となく彼を襲う。
「っなろっ……!」
 なんとか連なる小さな氷山の波から逃れ、冷気を掠めた頬の痛みを手で拭い誤魔化す。魔法、特に氷使いを相手にする際に厄介なのは、その凍てつく冷気に掠っただけでも冷えた火傷になる可能性があるということ。凍らされて動きを封じられるよりもマシに思いたいが、後引く痛みもなかなかに動きに制限を掛ける。
 青年が再び手を振り上げるのが見え、次の手を打たせるものかと即座に黒のトリガーを引くも案の定飛んできた水弾によって威力を殺がれ地に落ちた。次弾が来る。
「君のことだから顔に傷がついたら慌てふためくものと思ったけど、存外冷静なんだね。さて、君には魔法(これ)を防ぐ術があるのか、楽しみだ」
 青年が軽く指を鳴らすとふわふわと浮かぶ水の塊が次々に現れ、にこやかな青年に変わり銃士の彼を鋭く睨んでいた。バカにしやがって、銃士が毒づくと水球は彼に向かって距離を詰める。彼は慌てることなく腰に下がるポーチから何かを取り出すとそれをそのまま空中に放り、落ち始めたそれを近づいてくる水球に合わせて撃ち抜いた――そして、それは辺りに光と熱と煙の大音響を散らしながら爆ぜた。その閃光と立体音響に青年は思わず顔を覆うが、その口元に貼りついた悪どい笑みは辺りを包んだ白煙がひた隠した。

――硝煙の産声が煙を切り裂いて、カチャという小さな金属音を皮切りにカーテンコールは望んでいないが煙幕は上がった。そこに浮かび上がるのは3ヤードの0と1に立ち尽くす二人の人影、残弾の少ない両の筒を構える銃士と冷気の帯びた両の掌を向ける魔術師だ。青年の頬に描かれた赤い線からわっと赤色が溢れでる、それは幕開けの銃弾の行方を示していた。
 もしも彼が引鉄を引けば、頭蓋か心臓のどちらかに立派な赤い華と風穴を開くだろう。もしも彼が合図を出せば、背後で取り囲む水球は牙を向きその身体を貫くだろう。
「へぇ、あんたのことだから"顔に傷がついたら慌てふためくものと思ったが、存外冷静なんだな"?」
「……君の行動が理解できない」
「氷柱を熱で溶かせば使える水が増えるとわかって何故爆弾を撃ち抜いたかって?」
彼は続ける。
「その面が気に食わなかっただけだ」
小気味よく笑う彼の目はやはり笑っていなかった。


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