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麦色の小咄

- 【手招く観覧車】 -
【手招く観覧車】
※うちよそ三陣からの抜粋

「僕あれ乗りたい! 透明なの~!」
「透明なの……ってあれか! うわ、足竦みそう……」
 観覧車の改札ゲートを通り抜けて入り口で待つ。
「(近くで見ると……だいぶ錆びれているんだな)」
 他の色の観覧車はところどころ剥げているようで……それなりに老朽化はすすんでいるようだ。
 一つ前の観覧車が乗り場に止まった。その小窓から僅かに見えたのは赤色。
 少し悪寒がしたディルは少し屈んでシフォンの顔を覗き込む。
「シフォンちゃんちょっとこっち向いて。なんかちょっと汚れちゃってる」
 シフォンが観覧車に背を向けた時にドアが開いた。中には、びっしりと赤黒い何かが床一面壁一面にぶちまけられていた。
「まつげにもホコリ乗ってんじゃん! 目つぶって?」
 ドアの隙間から、蠢く黒い何かが手招いているようにも見えたが……やがてドアは閉まり動き出した。
「ほら、とれた。シフォンちゃんまつげながいんだね! ……あ、そろそろ透明なのがくるね!」
 シフォンちゃんの手をとって透明な席に乗り込む。ディルは、何も見なかったことにした。思えばこの透明な座席だけ取ってつけたように新しい。
 観覧車は動き出した。
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