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麦色の小咄

- 【シフォンとルヴェ】 -
【純真少女と天邪鬼】

2022年9月28日(水) 21:19

「ルヴェおにいさーん」
 目の前を歩く青年を見つけてシフォンは名前を呼び、すぐに飛びついた。声に気づいた彼の濃い緑色の髪が振り向きざまに揺れて、顔をシフォンに向ける。
 ルヴェは彼女の姿を見るなり細い目をさらに細めて眉間にシワを寄せた。そしてやあと口を開いて笑みを作る。
「クソガキはどこでもわくんだな? 暇を体で表しててずいぶんと大変そうですねー」
 皮肉を込めたトゲトゲしい物言いで自らの腰に抱きついたシフォンの頭をぐいと押し戻す。言外にさっさと自分から離れるよう圧力をかけていた。
「やだー!」
 それでもシフォンはルヴェから離れようとはせず、意地でも同じくの方へ手を回している。言葉の意味は通じなくても彼の離れろという圧はかんじているようだ。

 ルヴェはやれやれと大仰に手を広げて首を降る。
「お前、とんだじゃじゃ馬だな? さっきもお前の兄が探してたぞ」
「ウソだよ〜!」
「へえ? クソガキが俺にウソを指図できるようになったんだな?」
「だってさっきまでお兄ちゃんと一緒にいたもんー!」
 ルヴェに抱きつく力を強めてほほをふくらませるシフォン。そんな彼女の姿をルヴェはけらけらと笑う。
 シフォンの言うお兄ちゃんとは同じ屋根の下で暮らしている血のつながらない義兄のことだ。名をブランといいおてんばなシフォンの世話を一手に引き受けている優しい人だ。
 二人のやり取りはそんな義兄のヒヤヒヤした表情が浮かぶようだ。


 なら、とルヴェは言う。
「今度はウソのことを教えてやろうか?」
「むー。何?」
 彼は笑みを絶やさないまま、おもむろにシフォンの後ろ側へ指をさす。
「今あっちでミラが手を振っている」
「え? ……あ!」
 つられてシフォンが顔をそちらに向けたとき、ルヴェはいとも簡単に彼女の腕を振りほどいて歩いて行ってしまう。
 当たり前だが彼の示した先にミラの姿はなかった。
「おにいさんのウソつき〜!」
「最初にウソ教えるって言ったしな」
「もー!」
 振り向きもせずに歩いていくルヴェの後ろをシフォンはふたたび追いかけた。彼女がなぜひねくれ者のルヴェにここまで懐いているのか、それは彼女にしかわからないことだろう。
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