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メルフェネポス 短編集

《BATTLE!》

 ――はらりと、その本の表紙を開く。

「ウケッコウ……」
 道行くミラたちが見つけたのは、丸々と太った鳥系モンスター『ウケッコウ』。もふっとした白い羽と、その羽に埋もれた黒い嘴が特徴のそのモンスターは人前に現れることは非常に稀な存在だった。警戒心が高い上に逃げ足も速く、まともに相手をするのはなかなか骨が折れるのだが――ウケッコウの肉は美味しい食材として旅人の間では有名だった。
 幸いにもウケッコウは彼らの存在には気付いていないようで、ごくりと誰かのツバを飲み込む音が聞こえる。腹を空かせた四人の旅人たちの判断と行動は早かった。

「先陣は任せろ!」
「任せたよ、ディル!」
 風を切って走る彼の結わえた白い髪と服がはためく。腰から吊り下がる長剣の鞘と柄を掴み、瞬時にウケッコウへの距離を詰める。
「いくぜ、ミラ!」
「はーい!」
 白銀の刀身を鞘から引き抜き、刃を滑らせてウケッコウを上へと突き上げる。ディルの号令を聞いてすぐ、橙混じりの赤毛がふわりと揺れて彼の真横を通り抜けた。
 ミラは強く地面を蹴ると両手に握られた番いの剣を揃え、宙でバタバタともがくウケッコウを力のまま薙いで地面へと振り落とす。
「フェオー!」
「おっけー!」
 手を前に突き出した体勢で待ち構えていた少年の蒼い瞳が落ちてくるウケッコウの姿を捉えた。フェオの足元に浮かぶ青く彩られた魔法陣は彼のもっとも得意とする魔法の色。ウケッコウに狙いを定めると口を開いた。
「<ヒューレ>!」
 紡がれた言葉と共に少年の手から放たれた水の弾は、空を漂うウケッコウにお見事当たり勢いのまま横方向へと飛んでいく。
 その先には黒い肌が目立つエルフの女性が立っていた。
「最後任せたよ、ヴァニラ!」
「ああ、わかってる」
 開いたままの分厚い魔導書のページを開くと、彼女の手元に紫色の魔法陣が現れ光りだす。
「<黒炎《フレア》>」
 ヴァニラが小さく言葉を零すと、彼女に向かって飛んできたウケッコウは地面から現れた黒い炎に呑み込まれて姿を消した。

――パタリと、その本の表紙を閉じた。



「……って、ヴァニラちゃん! 燃やしてどうするんだよ!」
「む……? しまった、クセで」
「わーー! 私のローストビーフー!」
「ミラ、ローストビーフは豚だよ……」
 火力が強すぎたようで、黒炎の上がったあとにはウケッコウは跡形もなくなっていた。
「(ローストビーフって鳥でも豚でもねぇだろ……)」
というツッコミは胸の内にしまっておいたディルだった。

 了
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