scene.05 ミラと始まりの村
そして木ノ実の入った袋を村の入り口まで運んだミラは、お礼にもらった小さな籠いっぱいのダマスコの実を幸せそうにかじりながら、なだらかな坂道を下っていた。ちなみに今は三個目だ。
その途中でミラは早足で入り口に駆けてくる一人の人物とすれ違った。青い髭面と彫り深い顔が印象的な人物は一人しかいない、先ほどよりは落ち着いた様子のドミヌスだった。
そんな村長を見掛けたミラは、先ほどのロベルトとの会話を思い出して考えるよりも動いていた。怒られる前に謝るのは、身に付いたイタズラ魂とでも苦言しておくことにしよう。
「村長さん!ごめんなさい!葉っぱは私です!」
「ん?ああ、ミラ……。葉っぱ?」
ただし突然謝られた方からすれば、何のことだと思い当たる節を探すまでの間混乱するのは当然の反応と言えよう。
「ポストに大量の葉っぱを詰めたの私です!」
「……あ、ああ、そういえばポストにぎっしり葉っぱが……」
「あれ?怒らないの?」
「そんなことするのはミラしかいないだろうと忘れてたよ」
更に付け加えるなら、この村には質の悪い悪戯者と可愛げのあるイタズラ者がいるので、例えミラが誰かしらにイタズラを仕掛けたところで犯人なんてすぐに思い浮かぶのだ。簡単な答え合わせに今更怒るなどおかしい話だ。だが怒られると予想していたミラは村長の的外れな反応にあれと首を傾げていた。
「でも!私以外だってこういうのする人いるでしょ?ルヴェとか!」
「そうルヴェだ。ルヴェの奴を見かけなかったか?」
強面に見合うドスの効いた低い声で彼に尋ねられて、尚も食い下がるミラはルヴェの名を引き合いに出したことを後悔した。その見た目と低い声から初めはドミヌスを怖い人だと思ったミラだったが、今はもうすっかり慣れたものだ。
彼の尋ねたルヴェというのは彼の一人息子の名だ。ユウラとも親しい仲だということもあり、ユウラの手が空かない時などは代わりに稽古の相手をしてもらうこともある。ただ、なかなか掴みどころのない性格で、気まぐれに誰かしらを振り回しては困らせている村一番の厄介者でもあった。そんなドミヌスの口振りやこれまでの様子から考えると、ルヴェがまた何かをやらかしたことでドミヌスも怒り狂っていたのだろう。
そんな、どこにいても目立つような人物ならすぐに見つかりそうなものだが、ルヴェはまるで風のように足取りの掴めないことに定評がある。悪い奴じゃないんだけどね、というフェオの苦笑いを思い出す。
「……ルヴェは何をしたの?」
「聞いてくれるか、ミラ?あいつめ、またわしの本を勝手に持っていきやがった!まだわしが読み途中だったというのに ご丁寧に しおりだけを机の上に置いていったんだ……!」
彼への同情ではなく質の悪い悪戯者への対抗心から尋ねるミラ。ご丁寧に、という言葉を強調してドミヌスは自分の息子の悪行をつらつらと語る。
「えー!そうなの?……負けた」
思わずミラの口から本音が漏れた。
「負けたって……お前らは何の勝負してるんだ」
「……なんでもないよ!それにしてもルヴェは見てないなぁ」
「一つ言っとくと、ミラのイタズラとルヴェの悪戯は悪意が違うんだ。そもそもあいつは昨日も俺の飯に笑い茸突っ込みやがって……」
ルヴェが行なったことという前置きがあるだけで、その行為には悪意が込められているのは確実であり、例えミラのイタズラと大して変わらないものだとしても村長の怒りに火をつけるには充分だったらしい。心の内では、ルヴェには敵わないなと感服しているミラはわかったと言って彼の話に相槌を打って続けた。
「見かけたら言っとくね!」
「ああ、頼むよ。帰ってきたらとっちめてやる」
「ルヴェをとっちめることできるの?」
「……いつも逃げられてるけどな」
ドミヌスは苦く笑いながら、そう言い再びルヴェを探し始めた。
その途中でミラは早足で入り口に駆けてくる一人の人物とすれ違った。青い髭面と彫り深い顔が印象的な人物は一人しかいない、先ほどよりは落ち着いた様子のドミヌスだった。
そんな村長を見掛けたミラは、先ほどのロベルトとの会話を思い出して考えるよりも動いていた。怒られる前に謝るのは、身に付いたイタズラ魂とでも苦言しておくことにしよう。
「村長さん!ごめんなさい!葉っぱは私です!」
「ん?ああ、ミラ……。葉っぱ?」
ただし突然謝られた方からすれば、何のことだと思い当たる節を探すまでの間混乱するのは当然の反応と言えよう。
「ポストに大量の葉っぱを詰めたの私です!」
「……あ、ああ、そういえばポストにぎっしり葉っぱが……」
「あれ?怒らないの?」
「そんなことするのはミラしかいないだろうと忘れてたよ」
更に付け加えるなら、この村には質の悪い悪戯者と可愛げのあるイタズラ者がいるので、例えミラが誰かしらにイタズラを仕掛けたところで犯人なんてすぐに思い浮かぶのだ。簡単な答え合わせに今更怒るなどおかしい話だ。だが怒られると予想していたミラは村長の的外れな反応にあれと首を傾げていた。
「でも!私以外だってこういうのする人いるでしょ?ルヴェとか!」
「そうルヴェだ。ルヴェの奴を見かけなかったか?」
強面に見合うドスの効いた低い声で彼に尋ねられて、尚も食い下がるミラはルヴェの名を引き合いに出したことを後悔した。その見た目と低い声から初めはドミヌスを怖い人だと思ったミラだったが、今はもうすっかり慣れたものだ。
彼の尋ねたルヴェというのは彼の一人息子の名だ。ユウラとも親しい仲だということもあり、ユウラの手が空かない時などは代わりに稽古の相手をしてもらうこともある。ただ、なかなか掴みどころのない性格で、気まぐれに誰かしらを振り回しては困らせている村一番の厄介者でもあった。そんなドミヌスの口振りやこれまでの様子から考えると、ルヴェがまた何かをやらかしたことでドミヌスも怒り狂っていたのだろう。
そんな、どこにいても目立つような人物ならすぐに見つかりそうなものだが、ルヴェはまるで風のように足取りの掴めないことに定評がある。悪い奴じゃないんだけどね、というフェオの苦笑いを思い出す。
「……ルヴェは何をしたの?」
「聞いてくれるか、ミラ?あいつめ、またわしの本を勝手に持っていきやがった!まだわしが読み途中だったというのに ご丁寧に しおりだけを机の上に置いていったんだ……!」
彼への同情ではなく質の悪い悪戯者への対抗心から尋ねるミラ。ご丁寧に、という言葉を強調してドミヌスは自分の息子の悪行をつらつらと語る。
「えー!そうなの?……負けた」
思わずミラの口から本音が漏れた。
「負けたって……お前らは何の勝負してるんだ」
「……なんでもないよ!それにしてもルヴェは見てないなぁ」
「一つ言っとくと、ミラのイタズラとルヴェの悪戯は悪意が違うんだ。そもそもあいつは昨日も俺の飯に笑い茸突っ込みやがって……」
ルヴェが行なったことという前置きがあるだけで、その行為には悪意が込められているのは確実であり、例えミラのイタズラと大して変わらないものだとしても村長の怒りに火をつけるには充分だったらしい。心の内では、ルヴェには敵わないなと感服しているミラはわかったと言って彼の話に相槌を打って続けた。
「見かけたら言っとくね!」
「ああ、頼むよ。帰ってきたらとっちめてやる」
「ルヴェをとっちめることできるの?」
「……いつも逃げられてるけどな」
ドミヌスは苦く笑いながら、そう言い再びルヴェを探し始めた。