悪魔


クロームは京子とハルに偽造した身分証明書を渡した。

「これあなた達の身分証明になるから。」

渡された身分証明を見て京子とハルは目を見開いた。

「篠田明美!?何これ!?クロームちゃんどういうこと?」

「はひ!?宇佐田愛子ってハルの名前じゃありません!?」

クロームはため息混じりに説明した。

「デボラ・ビーニがキアロスクーロに命じてあなた達を探し出して殺そうとしているから別人になって。それに警察に協力してもらってあなた達の死亡を偽装したから。だから少なくてもキアロスクーロとボンゴレが潰れるまではその名前でいて。」

まあ、名前が変わってもボンゴレとキアロスクーロが存在するかぎりここから出れないと思うから無意味かもしれないと付け足すとクロームは用はないと退室した。

残された京子とハルは自分達が置かれている状況をやっと理解した。

「私達、デボラちゃんに命を狙われてるんだね。」

「ハルは凄く怖いです。」

「お兄ちゃん達大丈夫かな。ツナ君に謝ってボンゴレを継いでもらうように頼むしかないよね。」

「ツナさんがボンゴレを継げばツナさんも皆も助かります!」

置かれている状況を理解したが、ツナに対しては謝罪はついで程度にしか思っていなかった。
だから気付かない。クロームとミリアムがツナに会わせたくないと思っていることに。


ーーーー

ミリアムが見張りの交代に来てクロームはツナと雲雀はどうだったと聞くとミリアムは呆れ顔で話をした。

「どうもこうもないわ。雲雀恭弥は相変わらずだし、ツナは雲雀恭弥と付き合うを違う方向に捉えて怯えてるし。」

「道のりは長いかも。」

クローム達は事前に雲雀にアドバイスをした。

ツナには優しく接しろ。
怯えさせるな。
トンファーをちらつかせるな。

この3点だけで守っているのはトンファーをちらつかせないことだけだ。

「でも明日デートするから私達でツナを可愛くしようね!」

「うん。雲の人がびっくりするくらいに!」

ツナを雲雀の方に流して流しまくる作戦は始まったばかりだった。


デート当日ーーー

クロームとミリアムとソフィアによって変装込みで可愛らしく着飾ったツナに雲雀はまたもや直立不動。

「あの?雲雀さん?」

ツナが気遣うような声に我に返った雲雀は車に乗るように促した。

助手席に乗るツナはどこに行くのか聞いた。

「特に考えてなかったけど海にでも行こうか?この時季はまだ草食動物はいないだろうしね。」

確かに海開き前で人は少ない筈だとツナは思って頷いた。


多少人はいるが閑散としている。

ツナは砂浜を歩いて行く。

「海開き前ですけど日差しが強いから裸足では歩けませんね。」

「歩いたら火傷しかないね。」

雲雀もツナの隣で歩いている。

何も知らない人間が見たら恋人同士にしか見えない。

暫く無言で歩いていたがツナは立ち止まって雲雀を見て口を開いた。

「雲雀さんもクロームもミリアムもソフィアも俺に京子ちゃんとハルに会わない方が良いって言ってますよね?」

「そうだよ。あのアバズレ共は小動物に対して罪悪感がないからね。しきりに騙されたと言ってるし。そんなアバズレに会っても君が傷付くだけだ。」

デボラに騙されたから自分達も被害者だと思っている京子とハルの態度を思い出し雲雀は内心加害者の癖にと毒づく。

傷付くだけだからと言われたツナはほんの少し笑った。

「ふふ。」

「?」

「俺はあの時全てを失ったって思ってたんです。でもそんなこと無かったんですよね。」

「どういうこと?」

雲雀から見てツナはデボラと裏切者達のせいであらゆる物を失ったようにしか思えない。

「クロームとランボとフゥ太とイーピンは信じてくれました。」

「そうだったね。」

「確かに失った物もあるけどミリアムが親友になってくれたし、ソフィアはお姉さんみたいで。玲一さんは対等に接してくれて。なのに俺、そんな皆に心配させてますね。」

自分の名前が出てないことに雲雀は不機嫌になるが顔には出さないようにした。

「心配しかないよ。言っておくけど君が思っている以上に回りの人間は君を慕ってる。だからその分心配もするんだ。そのことを踏まえてアバズレ共に会うのかどうか考えな。」

雲雀に言われてツナは頷く。

「はい。雲雀さんには毎回助けられてますよね。ありがとうございます。」

ふわりと笑顔で言うツナに雲雀は何とか硬直はしなかったが心の中は大騒ぎだ。

『ちょっとその笑顔は反則だよ!』

「君といると面白いからね。」

心の中で大騒ぎしながらも雲雀は歩いて行く。ツナは慌てて後を付いていくが。

「うわっ!?」

砂に足を取られて転び、雲雀は手を差し伸べた。

「ドジは相変わらずだね。」

若干呆れ顔の雲雀にツナはすみませんと恥ずかしそうに雲雀の手を取った。

「すみません。やっぱり普段はダメツナです。」

「別に君がドジなのは知ってるから気にしなくて良いよ。寧ろ・・・。」

「寧ろ?」

「寧ろ僕が居る時は気を楽にしてなよ。」

「はい。」


雲雀は遠回しにツナにアピールしているつもりだが遠回し過ぎてツナは『雲雀さん俺のダメダメっぷりに呆れ反ったよね。』と思ってしまった。


クローム達が居たら頭を抱えていただろう。


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