悪魔
グリージョファミリーの任務から数日後の夜、クロームとミリアムは任務でツナは見送った。
「クローム、ミリアム気を付けてね。」
「ありがとうボス。」
「ツナ行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
手を振って見送ったツナはすることもなく飲み物でも飲もうと共有スペースに足を向けた。
「ソフィア一人なの?」
「そうねこの時間にしては珍しいわね。」
この時間帯でもディアベルメンバーは共有スペースに集まってそれぞれ話したり食事をしたりしているがこの日はソフィアだけだった。
ツナは紅茶を淹れようと茶葉を出してソフィアに聞いた。
「紅茶淹れるけどソフィアも飲む?」
「お願いするわ。」
紅茶を淹れてツナはソフィアの席に持っていった。
「はい。」
「ありがとう。」
「相席良いかな?」
「勿論よ。」
ツナはソフィアの向かい側に座って紅茶を飲んだ。ソフィアは何となくだがツナが自分のことを聞きたいと思っていると感じた。
「私のこと聞きたい?」
「えっ!?あ、その、えっと。」
ツナは聞きたいと思っていた。何故マフィアだったソフィアがディアベルに居るのか、何故ソフィアは自分にとても良くしてくれて優しく接しているのかが知りたかった。しかし自分から聞くのはどうなのかと思って黙っていた。
ソフィアは表情がコロコロと変わるツナに苦笑いした。
「聞いてくれる?」
「えっ?良いの?」
ソフィアは頷いて過去の話をした。
ーーーー
ソフィアはロッソファミリーのボスの娘として生まれてきた。
豪華絢爛の調度品にドレス、アクセサリーに囲まれ、欲しい物は言えば直ぐに手に入る。それがソフィアの世界だった。
ロッソファミリーは裏では麻薬売買、人身売買、臓器売買等で拡大させていた。構成員は乗し上がる為に相手を陥れ殺していたりした。その中で生きてきたソフィアは染まっていき成人する頃には欲する物は何でも手に入れ時には奪い相手を見下し陥れ嵌めて破滅に追いやっていた。陥れた相手のことなど気にもせず弱者は搾取されるために存在している程度にしか思っていなかった。
その頃のソフィアの顔は酷く荒んでいて一番欲しい物を手に入れようとしていた。
「私が今欲しい物はボスの椅子よ!それには兄を始末しないとね。」
ソフィアには兄がいてその兄と水面下で争いが始まったが窮地に追い込まれたのはソフィアだった。
兄は抗争中にソフィアが敵対ファミリーと通じている裏切者として仕立てあげソフィアを牢屋に入れた。
「くそっ!嵌められた!」
ソフィアは不得手な幻術を何とか駆使して牢屋の鍵を開け、姿を隠して自室でアクセサリーと宝石、現金を鞄に詰め込んでいた。
「##RUBY#兄#あいつ##のことだ!絶対私を処刑するわ!!」
ソフィアが兄を邪魔だったように兄もまたソフィアが邪魔だった。その兄がボスになれば容赦なく処刑するだろう。
常に勝者だったソフィアは敗者の側になりロッソファミリーから逃げ出した。
兄の仕向けた追手をかわしながら逃亡生活を強いられたソフィアはある日、目の前の光景を見た。
怯えた少女。その少女からルビーのネックレスを強奪したマフィアらしき少女がいた。
「それはママンの形見なの!!」
「形見だか何だか知らないけどあんたが持つには不相応よ。だから私が貰ってやるわ!」
「返して!!」
少女は取り返そうと掴みかかったがマフィアらしい少女が手加減なしで鳩尾を殴った。
「ぐっ、ゲホッゲホッ!」
少女は踞り嘔吐しマフィアらしい少女は見下した目を向けると少女の頭に足を乗せて顔を嘔吐物がある地面に押し付けた。
「これは私の物なの!弱者のくせにしつこいんだよ!撃ち殺そうか?」
鼻で笑いルビーのネックレスを身に付け去っていくマフィアらしい少女。弱者と呼ばれた少女は嘔吐物にまみれながら泣くしかなかった。
一部始終を見ていたソフィアはこんなことは日常茶飯事だと思っていたが何故かこのことは頭に焼き付いた。
それから逃げながら似たり寄ったりの光景を見た。
金を払わず物を奪うマフィアに反抗して殺された店主。
マフィアに利権書を騙し取られて土地を奪われ路上生活するはめになった老人。
ただ肩がぶつかっただけでマフィアに銃で撃たれた若者。
多額の借金を負わせたマフィア。借金のかたに風俗に売り飛ばされた娘。
マフィアに濡れ衣を被らされて牢屋に入れられた夫婦。
醜い顔をして相手の大切な物を奪っていくマフィア。
大切な物を奪われた人間の絶望に覆われた顔。
ソフィアは見てきて自分のしてきたことを理解した。
「私は、あんな醜い顔をしていたのか?」
騙し陥れ嵌める。欲しい物は強奪する。それが当たり前だったソフィアは追われ敗者の側に立ちマフィアのやり口に愕然とした。
マフィアの頃は奪いたいだけ奪い邪魔な人間は陥れてきた。その時の嵌められた人間の顔をまともに見ず鼻で笑い飛ばしていた。だがマフィアに追われる立場になり第三者の目で見てきたソフィアは。
「あんな・・・絶望した顔をしていたなんて・・・・・・。」
自分の両手が血に染まっているように見えて叫んだ。