悪魔

ディアベル


何処と無く雲雀に似た男がイタリアのあるカフェである人物を待っていた。
遅いと思いながらコーヒーを飲んでいると遅くなったと赤毛の男がバタバタ走ってくる。

「遅いよカルロ。20分も遅刻だ。」

「玲一、悪い悪い。」

カルロは軽く謝って店員にコーヒーを注文した。

「で、カルロ用件は?」

カルロに呼ばれたのは単に自分の様子を見に来たわけではないと分かっていた。


ーーーー

玲一は11才の時に両親を事故で亡くしイタリアの片田舎にいる親戚に引き取られた。しかし親戚は善意で引き取ったわけではなかった。玲一の家は資産家で財産が目当てだった。
引き取られてから親戚は真っ先に雲雀丘家の財産を手に入れようと動きまんまと手に入れてしまった。元々財産を奪うつもりだったからか用意周到で11才の玲一は財産を守り切れなかった。
それからと言うもの食事、掃除、洗濯等の家事を親戚は玲一に押し付けていた。逆らえば「恩知らず!」と言われて殴り付けられた。

学校には行かせて貰えたが玲一の為ではなく近所の目を気にしていたからだ。学費は玲一の両親の生命保険金から出していた。

理不尽極まりない生活。玲一は13才の時に親戚をボコ殴りにして、雲雀丘家の財産を取り返そうとしたが殆ど無かった。
「どういうこと?」と踞っている親戚を蹴り飛ばすと家のリフォームや車や宝石等の高級品と博打の借金の返済に使ったと返ってきた。
玲一はどれだけ金使いが酷いんだと呆れたが残り少ない財産を手にして親戚の家を出た。

しかし出ていった所で行く宛はなかった。働きたくても13才の子供で日本人。イタリア語が話せても働き口がなかった。

「仕方ない。今日のところは野宿だ。明日は都会の方に出てビジネスホテルに泊まって全寮制の学校にを探すか。」

玲一は成績は良かったので奨学金は簡単に得るだろう。スポーツ推薦だって可能だ。つまり学費は問題がなかった。


公園のベンチに座っていると男が声をかけた。

「坊主、家出か?」

やたら大きいリュックで夜中に公園。男は簡単に察知した。

「・・・・・・。」

「黙秘か?」

「・・・・・・。」

「ここでの最後の仕事が家出少年の補導かぁ。」

やれやれと言ったような感じで男は警察手帳を見せて「とりあえず話くらいは聞くぞ?」と玲一の隣に座った。
玲一は今までのことを話した。


「成程な。そりゃ出て行きたくもなる。」

「もうあの家には帰らないよ。全寮制の学校に行こうと思っているから俺のことは放っておいて。」

「だがなあ、子供が家出したところで補導されるのがオチだし養父母がいるなら連れ戻されるかも知れないぞ?」

「そうなの?」

キョトンとした顔の玲一に男は苦笑いして玲一を見た。このまま放っておいたらもしかしたら誘拐や殺人等の事件に捲き込まれる可能性がある。家に帰してもまたこの少年は家出するだろう。
そして何より少年の意思の強そうな目が気に入った。


「なら俺と来るか?辞令が出て明日この町を出るんだ。俺が保護者になりゃ学校にも行けるし食うに困ることもない。」

男が見せた警察手帳は本物のようだしこの町から出れるならと玲一は即答した。もし騙されたら親戚同様にボコればいいだけだ。

「行くよ。この町にいたら親戚連中に金をむしり取られるから。」

「よし!明日は早起きだぞ。」

「分かった。俺は雲雀丘玲一。貴方は?」

「俺はカルロ・チェッキーニ。よろしくな。」



カルロは玲一を一晩家に泊めて翌朝この町を出た。


今日から住む町は田舎ではなく都会で色々な店が並んでいる。
玲一はキョロキョロと回りを見渡す。物珍しいというよりはどこに何があるか確認している。カルロはこの年齢ならはしゃぎそうなものなんだがなと思いつつも新居のマンションに着いた。
先に届いていた荷物を整理した後カルロは玲一に学校の成績を聞いた。学力によって通う学校は変わってくるからだ。
玲一は与えられた自分の部屋から教科書を持ってきた。

「今はこの辺やってるけど予習してここまでやったよ。」

学校でやっているところのページと予習したページを開く玲一にカルロは目を丸くした。
予習したページは最後の方だった。
カルロはマジか!と驚いたが答えが合っていなければ意味がない。試しに最後のページの問題を目の前で玲一に解かせようと荷物から筆記用具を出して渡した。
数十分後、答えを見てカルロは目をまん丸にした。

「全教科、全問正解かよ・・・。」

答えが書かれたノートと玲一を交互に見るカルロは冷や汗、玲一は涼しい顔をしていた。

とりあえず学力に問題がなければ好きな校風の学校に通える。カルロは行きたい学校を選んでおけとパソコンで検索させた。玲一は特に校風や偏差値をさほど気にしていなかったからマンションから一番近い学校を選んだ。



玲一が学校に通い出して数日後、非番だったカルロは学校から呼び出され教室に通された。
そこには泣きじゃくった女子生徒と手当てがされている怪我だらけの数名の男子生徒と仏頂面の玲一がいた。
カルロはこの状況を『男子生徒達が女子生徒に苛めかレイプしようとしていた』と察知するがとりあえず教師に聞いた。

「玲一の保護者のカルロ・チェッキーニです。これはどういうことですか?」

「実はそれが分からなくて。見回りをしていたら裏庭から呻き声がして急いで行ったら・・・。」

「このような状況にってことですね。」

「話を聞こうにもマリーさんは泣いていてマリオ君達は怯えていて。玲一君はマリオ君達を睨むだけで話をしてくれなくて。」


おそらく教師歴が浅いだろう男性教師は困り果てて呼んだと検討をつけてカルロは玲一に聞いた。

「とりあえず話してみろ。先生困ってるだろ?」

玲一は一緒に暮らしているカルロ相手じゃダンマリを決め込めない。話すまで聞いてくる筈だ。しかも警官なのだからしつこく粘るだろう。仕方なく仏頂面で説明した。

「花壇の水やり当番でホースとか片付けていたら裏庭から悲鳴がしてさ。行ったらそこの男子達が女子を苛めてたから殴っただけ。」

カルロは怪我だらけのマリオ達を見て『いやいや、殴っただけではないだろう?殴り飛ばしたり蹴ったり蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりしたろう?』と心の中で突っ込んだ。

その後遅れて来たマリーとマリオ達の親が来て教師が玲一から聞いた話を説明し、マリオ達は玲一の言った通りだと白状して其々の親は自分の子供をぶん殴りマリーとその親に謝罪して帰っていった。

もしかして玲一はマリーが好きなのかと後でからかってやろうと思っていたカルロだが。

「あのさ、いい加減に泣き止んだら?鬱陶しいんだけど。」

玲一の冷たい一言でマリーは一瞬泣き止んだがまた泣いてしまい、カルロは「おい!女の子に酷いこと言うんじゃない!」と玲一の頭を軽く叩くがマリーの親は「玲一君の言う通りだ。いつまでも泣いてないでお礼を言いなさい!」と軽くマリーを叱ってから玲一とカルロに感謝の言葉を伝え教室から出ていった。

カルロは「お騒がせしました。」と教師に頭を下げて玲一と教室を後にした。


「玲一、怪我してないのか?」

何せ数人との乱闘で日本人の玲一はイタリア人のマリオ達より体格が劣っていた。

「怪我してないよ。アイツら弱かったし。大体群がらないと苛め一つ出来ない連中は弱いもんさ。」

まるで自分から財産を奪った親戚のようだと思う玲一。


「そうか。でも好きな女の子に酷いことを言うなよ?」

面白そうに言うカルロに玲一は目を点にした。

「好きな女の子?そんなのいない。」

「マリーちゃんが好きだから助けたんじゃないのか?」

「マリー?さっきの子か。初めて会ったから好きも何もないよ。ただ群がって弱いもの苛めするような連中を見ると叩き潰したくなるだけでたまたま助けた形になったんだよ。」

「そうなのか?可愛い顔をしてたじゃんか。惚れないのか?」

「顔見てない。それに女子ってたまに取っ組み合いの喧嘩するし面倒臭そうだから興味ない。」

そもそも玲一は学校を卒業しないと職にありつけないと知っていたから通っているだけだ。
カルロは数日で玲一の喧嘩の強さと女の扱いが下手を通り越していることがわかった。


それからというものカルロは驚きっぱなしだった。


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