悪魔


医師は検査結果を見て眉を寄せた。

ツナの体内にはある成分が長い年月をかけて蓄積されていた。


「沢田さん本人は知っているのか?」


本来なら親を呼ぶところだが医師はツナの両親の有無を知らされていない。それ以前にディアベルに所属している人間には親兄弟がいない者が多い。

医師はツナを運んだ玲一とミリアム、ソフィアを呼ぶことにした。


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呼び出された玲一達がツナの病室に来ると医師は何とも言えないような顔をして口を開いた。

「検査結果ですが落ち着いて聞いて下さい。沢田さんの体内には長い年月をかけて蓄積されていたある成分が見つかりました。それは改造されたホルモン剤です。成分を調べましたがこれを服用したら身体が女性としての成長を止めることになり初潮も来ることもありません。」

「っ!?」

「ちょっとそれってどういうことなの?」

「ツナの体は大丈夫なの?」

医師の説明にツナは驚き、ミリアムとソフィアはツナは大丈夫なのかと心配する。
玲一は落ち着いた様子でツナに聞いた。

「ツナ、君は毎日薬やサプリメントみたいな物を服用していた?」

ツナは首を横に振った。

「サプリメントなんか飲んだことないです。薬は風邪をひいたり熱を出した時くらいで毎日飲んでないです。」

「ドクター、ツナには身に覚えがないらしいよ。」

医師はそうでしょうねと溜め息まじりに言った。

「この成分は麻薬と紙一重です。少しでも量を間違えれば死に至る可能性も否定出来ない。そんな物を沢田さんに服用させていた人物は沢田さんに分からないように摂取させてたと思いますよ。」

麻薬と紙一重の薬だとはツナ本人に言える筈はないからと付け加える医師にツナはある人物を思い出した。
ツナの食事を毎日用意していたのは母親の奈々だ。奈々なら誰も怪しいとは思わない。
ツナは体をブルブル震わせた。

『ビーニさんに嵌められてから母さんは食事を作ってくれなかったけど何故か飲み物だけは飲ませてくれてた・・・』

自分の身体を多少は気遣ってくれていたと思っていたツナだったがある疑惑が生まれる。


「ま・・・さか、母さんが・・・?」


真っ青になって絞り出すように声を出したツナをソフィアが抱きしめ落ち着かせる。

「まだ母親かどうかは分からないわ。だから落ち着きましょう?」

そう言ったがソフィアは十中八九、母親の奈々だと思った。ただ奈々は成長を止める物だとは知らないだろうとも思った。大方、ツナの父親の家光が奈々を騙していたのだろう。

『マフィアなら喉から手が出るほど欲しがる超直感。おそらくは血筋を守りそして性別を偽らせる為に飲ませていた。妻を騙して。』

実際、家光はツナに飲ませるための栄養剤だと言って渡して奈々は疑わなかった。ただ粉状だったから家光が飲みやすいように食事に混ぜるように奈々に言っていた。


「でも何でツナは倒れたの?」

ミリアムの問いに医師は説明する。

「改造されたホルモン剤を服用しなくなったからだと思いますね。ホルモン剤を飲まなければ身体の成長を止めることは出来なくなります。ただいきなり絶ったことで身体に負担が相当掛かっていたのではないかと推測します。」

ツナは恐る恐るという感じで医師に質問する。

「あの、その、俺の身体はどうなりますか?」

「命に別状はないですね。沢田さんの身体はこれから女性の身体に変わっていくでしょう。ただ無理矢理ホルモン剤で成長を押さえ込んでいましたから反動で急激に変化する可能性があります。それによる吐き気等の症状も出る可能性も。暫くは戦闘訓練はいつもの半分の時間かしない方が良いですね。」


医師の説明にツナは命と身体に問題はないことに安堵したが何故男として生きていかなくてはならなかったのだろうと疑問は残ったままだった。


ーーーー

医師にくれぐれも無理はしないようにと言われてツナは暫くの間、戦闘訓練は無しになり、イタリア語を覚えることに集中した。


「筆記はまだまだだけど喋るのは上達したね!」

「そうかな?」

ミリアムはこの分なら外出しても大丈夫だろうとツナに言った。

「体調が良くなったら実戦しよう。買い物とか出来るレベルになってるし。ドルチェが美味しいカフェがあるからそこも行こうね!」

「美味しいドルチェかぁ。凄く楽しみ!紅茶とかもあるの?」

「勿論!」

ディアベルメンバーの共有スペースでツナとミリアムは喋っていた。しかも全てイタリア語で。

その様子を見ていた他のディアベルのメンバーは年相応の会話しているツナとミリアムを微笑ましく見ていた。
書類を持った玲一はツナの様子を見て大分イタリア語が話せるようになったなと感心して、ダンテの執務室に足を向けた。


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