悪魔
「何で・・・あんたがここに!?」
「ウフフ!家族を亡くしたブスを見に来たのよー。それにしても目に隈を作って痩せこけて可哀想~。」
「人を陥れるわ暴力を振るわせるわ嫌味を言うわ本当に最低ね!」
睨むミリアムにデボラはフンッと鼻を鳴らす。
「あんたの家族が死んだのは~確かブレーキの故障よね~?」
「・・・何が言いたいの?」
「あれさデボラが部下に命令して車に細工してやったの。」
「部下?何それ?意味わかんない!」
「アハハハ!デボラはねマフィアのキアロスクーロファミリーのボスの娘なの!だからファミリーの人間はデボラの部下!!だから簡単に殺せたんだけどね!」
「マ、マフィア!?」
デボラは口角を上げる。それは醜い弧を描いている。
「折角デボラが家族揃って殺してやろうと思ったのにお前だけ乗ってないなんてムカついたけど今のあんたを見てすごーく楽しめたわ~。」
ミリアムは怒りで目の前が真っ赤になる。ニヤニヤするデボラに掴み掛かった。
「彼氏と友人を奪い取ったのに何でそこまでするのよ!頭おかしいわよ!あたしの家族返してよ!」
「五月蝿い!このデボラ様に歯向かうなドブスが!」
デボラは渾身の力でミリアムを突き飛ばす。ミリアムは尻餅をついた。
「痛!」
「アハハハハ!ブスの分際で逆らうから悪いんだよ!」
「何様のつもりよ!」
「煩い!ブスが言うことを聞いていれば家族は助かったのにねぇ~?」
言うことを聞かないミリアムが悪いと口汚く罵るデボラ。
ミリアムは立ち上がるとデボラを思いっきり平手打ちをした。
「この悪魔!」
バシンッーーー
「ギャッ!?」
デボラは赤く腫れた左頬を手に当てる。デボラは怒り狂った。
「楽しめたからそれで許してやろうと思ったけどやっぱり止めた!殺してやる!デボラに手を上げたことを後悔しろ!」
「警察に脅迫と殺人で訴えてやるわ!」
ミリアムが訴えると言ったがデボラはゲラゲラと笑い一蹴した。
「出来るものならやってみろよ?警察だってキアロスクーロファミリーが圧力をかければ問題ないんだから~。寧ろブスを刑務所に送り込むことだって出来るしぃ。あー、力のない虫けらみたいな奴は不幸よねぇー。な~にも出来ないもの~。」
「クッ!」
唇を噛み締めて黙り込むミリアムを見てデボラは溜飲が下がった。
「そうそう。そうやって訴えるなんて止めて言うことを聞けば良いのよ。」
「・・・・・・。」
「この辺に廃墟のビルがあるでしょ~?そこに明日来てよ。」
デボラは醜く顔を歪めて笑う。
「部下に命令してレイプさせた後になぶり殺してやるよ!!」
「!?」
顔色が真っ青になるミリアムにデボラはニタァ~と笑いミリアムの怪我している足を蹴る。
「いっ!!」
「ちゃんと来いよ?じゃないとあんたの元彼か元親友をターゲットにしちゃうんだから~。ギャハハハ!」
笑いながら去っていくデボラ。ミリアムは自分の部屋に戻ると座り込んだ。
「どうしよう!廃墟のビルに行っても行かなくてもどのみち殺される!!でも行かなかったら・・・。」
絶交されても昔は仲が良かった元彼と元親友達。
だがミリアムが思い出すのは元彼や元親友はデボラのように醜く歪んだ顔でミリアムの腹を殴り、頭を踏みつけ、私物を破壊していた。
過去に仲良くしていた思い出は霞んでいた。
ミリアムは立ち上がりリュックの中に物を詰め込み出した。財布に通帳。着替えの服、下着。そして家族で撮った写真。
「あたしはまだ死にたくないの。だからごめん。」
別に元彼と元親友達が殺されてしまえばいいとは思っていない。だけど知らず知らずのうちにミリアムとって彼等は裏切者としての存在に成り果てていた。
ミリアムは夜中帰宅した叔母が寝たのを確認してから静かに玄関のドアを開ける。
「叔母さん、叔父さん。引き取ってくれて本当にありがとう。」
小さい声でお礼を言ってミリアムは家を出た。
叔母の家を出てからは逃げ回る日々だった。怪しい人間が遠くから近付いて来たら急いで逃げる。ミリアムは逃げる時は人が居る場所を選んで逃げる。繁華街や商店街は人が多い。デボラの部下だってそんな場所でそう簡単に拳銃は使えない。そう考えてミリアムは逃げ回った。
両親が残した財産はなるべく使わないようにして短期のバイトで食い繋いだ。
だがいつまでも続く逃走生活。寝床だって毎日確保出来るわけでもない。安心出来る場所すらない。
逃走生活はミリアムの心身を疲弊させた。
そんなある日ミリアムはとうとうデボラの部下に見付かってしまった。
人気のない廃墟のビルに連れ込まれるとデボラの部下は拳銃をミリアムの額に銃口を向けた。
「悪いがここで死んでもらう。」
デボラの部下は淡々と言った。ミリアムはここまでかと目を伏せる。
ズガァーンーーー
「ウガァッ!!!」
ミリアムは拳銃の音とデボラの部下の呻き声に目を開ける。
「え・・・?」
そこには足を撃ち抜かれてのたうち回るデボラの部下と拳銃をホルスターにしまうダンテがいた。
ダンテは携帯で警察にではなくカルロに連絡するとミリアムがいる場所に歩み寄る。(因みにカルロに引き渡されたデボラの部下はキアロスクーロの構成員だが下っ派でキアロスクーロの悪事を掴むことは出来ず殺人未遂で刑務所に送られた)
「大丈夫か?」
「は、はい・・・。」
ミリアムはこの状況に混乱した。ダンテは気にもせずに話す。
「偶々君が連れ去られるのを見てね。それに君の姿をあちらこちらで見たよ。まるで逃げ回るようにしていた。」
「あ、貴方は?」
デボラの部下ではないのは分かる。でも逃げ回る姿を見られていた。それに普通の人間なら追いかける前に警察に通報する筈。
ミリアムは警戒した。
「警戒心が強いのは良いことだ。何より少人数とはいえ回避する能力には目を張る。」
「貴方は・・・一体何者なの?」
「俺はダンテ・ランベルティ。秘密結社ディアベルのリーダーだ。入る気はないか?」
「秘密・・・結社?何をしているの?」
「マフィアを殲滅させるための秘密結社だ。君はマフィアに追われているようだし、ディアベルに入れば逃走生活は終わるし寝床も食事も提供する。」
マフィア殲滅。それはキアロスクーロファミリーをいつか潰すことも出来るかもしれない。それにデボラも捕まえられる。
ミリアムは自分が味わった地獄をこれ以上誰かに味あわせたくなかった。
どのみち帰る場所はない。ならこの男に付いていくのもアリだ。
「良いわ。あたしディアベルに入るよ。」
ミリアムはディアベルのメンバーになった。
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「ビーニ!あんたは他人を虫けらにしか思っていないみたいだけど見てなよ!虫けらだって闘えるんだから!」
ミリアムはそう言って拳を右側の壁にダンッと打ち付けるとシャワールームを後にした。