悪魔
ディアベル日本支部の入口である喫茶店にツナはコテンと首を傾げる。
「沢田さん。中に入って。」
ソフィアに促されてツナは喫茶店に入って行く。玲一はスタッフオンリーと書かれた扉を開いて案内する。
「沢田綱吉さんここから階段だから足元気を付けて。」
「は、はい。」
階段を降りていくと幾つものドアがあった。
玲一は真ん中のドアを開いた。戸惑うツナにソフィアが優しく語りかける。
「沢田さんこれからのことを考えましょう。」
ソフィアの言う通り、これから先のことを考えなければならない。ツナは玲一に案内された会議室に足を入れた。
会議室に入るとテーブルと椅子があり、ホワイトボードには色々の書類や写真等が貼られていてパソコンも数台置かれていた。
「沢田さん適当に座って良いから。」
ミリアムに言われ近くにあった椅子に座るとディアベル支部のメンバーが軽食を用意してテーブルに置いた。それが合図になったのか玲一がツナを見て口を開いた。
「沢田綱吉さん君はキアロスクーロファミリーのデボラ・ビーニに陥れられた。違う?」
「ーーーーッ!?」
キアロスクーロとデボラの名が出て陥れられたことを知っていることにツナは驚愕した。
驚き固まるツナに玲一は続ける。
「それに戸籍も出生証明書も男なのに君は女だよね?もしかしてボンゴレの都合?」
「ーーーーッ!!??」
ツナは玲一はどこまで自分とボンゴレ、キアロスクーロのことを知っているんだと顔色が青くなっていく。それを見てソフィアが軽く睨んだ。
「ちょっと玲一!言い方が悪いわよ。沢田さん怯えてるじゃない!」
「沢田綱吉さんゴメン。本題に入るよ。」
「本題?」
玲一はツナを見据えた。
「俺達は秘密結社ディアベル。マフィアの殲滅の為に作られた組織。キアロスクーロを潰そうとしていてその為に俺達は君を脱獄させた。」
玲一の言葉にツナは戸惑いながら玲一とミリアム、ソフィアを見る。
ミリアムとソフィアは何とも言えないような顔をしたが玲一は特に表情を変えなかった。
「俺達は今キアロスクーロの情報が欲しい。そしてボンゴレの情報もだ。沢田綱吉さん、ディアベルに入る気はない?」
「えっ!?」
デボラに陥れられたことと本当の性別のことを知られてその上マフィア殲滅の為に作られた組織に入る気はないかと聞かれツナの思考はショート寸前だ。
「あのいきなり言われても・・・。」
「それもそうだね。少しだけ時間をあげるから考えてみてよ。これから先君がどうやって生きていくのかを・・・ね?」
ディアベルに入るなら歓迎するよと言い残して玲一は会議室を後にした。
ツナは玲一の含みのある言葉の意味を悟った。
ボンゴレとキアロスクーロに睨まれている以上、普通に働いて生活なんて出来るわけがない。逃げ回るにも資金がいる。
働き口を見付けてもボンゴレかキアロスクーロに知られたら捕まえに来るだろう。
ボンゴレの試練、ボンゴレリングを元の形に戻し、中断したとはいえ継承式をしたツナは既にマフィア中に知れている。そんなツナが今更一般人として生きていくことは難しい。
『あの玲一さんって人は遠回しに普通に働いて生活なんてボンゴレとキアロスクーロに追われながらは無理だって言ってるんだ。』
椅子に座ったまま考えているとソフィアがツナに言った。
「沢田さん、私達がしたことは気にしなくて良いのよ。こっちは思惑があってしたことだから。でも暫くはディアベルで保護させてもらうことになるけど。」
ボンゴレとキアロスクーロの情報が欲しくてしたことだと言われたがツナからしてみれば刑務所の外に出れたのは玲一とソフィアとミリアムとディアベルのメンバー達のおかげだ。
『ディアベルに入っても良いかもしれない。けど・・・。』
ディアベルはマフィアの殲滅させるための組織。かつての仲間と敵対することになる。
『でもそれはここにいる人達もそうなのかな?』
普通の企業ではない組織。その組織に入るのも何かしらの理由があるかもしれない。
「あの、ここにいる人達は何故ディアベルに?」
ツナの疑問にミリアムは一瞬暗い表情をしたがその質問を誤魔化すように言った。
「あっ!あたしツナの寝室の準備してくるよ!」
そう言ってミリアムは会議室を出ていく。
ミリアムの過去を知っているソフィアは仕方ないと切なそうに小さく息を吐いた。
会議室に居たディアベルのメンバーは簡単に答えた。
「私は15才の時にヤクザに売り飛ばされそうになったんだ。でも偶々ディアベル日本支部のメンバーに助けられたの。親はもう亡くなっていたし行く所もなかったから。」
「俺も似たようなもんだな。ディアベルが助けてくれなかったら殺されてたよ。」
「僕は殺人現場を見てしまってそれからその殺人犯に狙われて逃げ回って生活してたんだ。警察に相談したけど相手にしてもらえなかった。そんな時にディアベルに助けられた。」
「ディアベルはマフィア関係以外にも欲しい利益や情報があれば動く組織だ。例えばヤクザに売り飛ばされそうになった奴を助けたのはヤクザと繋がっているマフィアの情報が欲しかったから。殺人現場を見た奴はパソコンの技術が凄かったから。つまりディアベルにとって必要だと思ったから助けたりするんだよ。」
「世の中綺麗事なんかで生きてはいけないよなー。」
メンバー達の話を聞いたツナは自分と同じように居場所を無くした人達なんだと思った。
それにデボラの嘘を暴けばリボーン達とやり直せる可能性もある。
「俺・・・ディアベルに入るよ。」
ツナは告げるとソフィアはツナを玲一の部屋へ連れていった。
玲一の部屋へツナとソフィアがドアをノックすると玲一がドアを開けた。
「二人共どうした?」
玲一はツナとソフィアを部屋の中に通した。ツナは玲一を見た。
「玲一さん。俺、ディアベルに入ります。」
玲一は内心で『これでキアロスクーロとボンゴレの情報が手に入るかもね。』と喜んだがおくびにも出さずニコリと笑った。
「そう。なら今から沢田さんはディアベルのメンバーだ。よろしくね。」
玲一はツナとソフィアをソファーに座らせて今後のことを話した。
「明後日の8時の便でイタリアに行く。」
「え?でもイタリアはボンゴレの本部とキアロスクーロの本部があるんですけど。」
「沢田さんの言う通りだけど寧ろイタリアにいた方が安全だよ。ボンゴレもキアロスクーロも君がイタリアに居るなんて考えないだろうしね。」
ボンゴレの血筋とはいえ、ツナ自身は何の権力もない。マフィア以外の人間からしたらツナは一般家庭の高校生だ。そんなツナがイタリアに行くだけの金を持ってるとは思われない。
「そっか。確かに日本に居るよりイタリアにいた方が脱獄したことがバレても安全ですね。」
「灯台もと暗しね。」
「そういうことさ。」
ツナとソフィアが部屋から出ると玲一はダンテにツナがディアベルのメンバーになったことを連絡した。