悪魔
ツナが刑務所に放り込まれた頃、雲雀は目の前に居る人物二人に苛立っていた。
風紀財団は戦闘訓練施設等ある程度出来上がっていた。そこにいきなりリボーンと両手と右足に包帯を巻いているデボラがアポなしでやって来た。
デボラは兎も角リボーンはどこからでも侵入してくる。仕方ないと雲雀は応接室にリボーンとデボラを通し座らせた。
「今日は重大な知らせがあってな。」
「知らせ?」
「ボンゴレ10代目はダメツナからこのデボラに交代したぞ。」
リボーンの隣に座っているデボラは笑顔で口を開いた。
「初めまして雲雀さん、ボンゴレと同盟を組んでいるキアロスクーロファミリーのデボラ・ビーニです。」
胡散臭い笑顔で挨拶をするデボラに雲雀は無表情。
ボンゴレリングを元の姿に復活させ初代ボンゴレに認められたツナがデボラと交代とはどういうわけだと訝しげに二人を見る。
どう見てもデボラはトップに立ち組織を率いる素質は見受けられない。
「その女と交代?何故?」
リボーンは雲雀にツナが罪人だからだと話始めた。
「ダメツナの奴デボラを苛めた抜いてレイプしようとしてあげくに暴力を振るって怪我をさせたんだ。」
ツナは人を苛める人間には見えない。寧ろダメダメのダメツナと言われて軽くからかわれているしカツアゲのカモになっている。どちらかと言えば苛められる側だ。
「・・・その女はボンゴレの血筋なの?ボンゴレの試練は受けたの?」
雲雀の疑問にリボーンはデボラは4世の傍系だと答えた。
「キアロスクーロのボスとその娘のデボラは4世の傍系だぞ。ダメツナに苛められ襲われそうになっても仲直りしたいと奮闘しているデボラはボンゴレの試練を受けるまでもねえ。デボラのような懐が深い人間がボンゴレ10代目に相応しいんだ。」
その後もリボーンは饒舌にデボラは優しい人間だ、成績優秀だのとデボラを褒め称える。
一頻り喋るとリボーンは雲雀にこれからはデボラの守護者だぞと言い出した。デボラはよろしくお願いしますとこれまた胡散臭い笑顔で軽く頭を下げる。
「僕がその女の守護者?馬鹿言わないでよ!」
「しかし雲の守護者はお前しかいねえ。それにダメツナには協力してきた以上、雲雀はボンゴレの守護者だ!」
冗談じゃない。
協力してきたのは惚れたツナがいたからに過ぎない。最初の方こそ面白そうだから力を貸していたがシモンファミリーとの闘いの頃には自分から進んで力を貸した。それも自分が惚れたツナの為。
群れにすら入れない草食動物が徐々に変わり牙を剥くことが出来る小動物になったツナ。
それも仲間の為だ。時には迷い立ち止まることもあったがツナはその度に乗り越えてきた。
そんなツナに恋心を持った時はある意味絶望した。自分もツナも男だから。何度『沢田が女だったら』、『自分が女だったら』と思ったか。けれど思った所でどちらかの性別が変わるわけではない。何よりツナに知られたら最後だ。気味悪がられて避けられてしまうだろう。雲雀はツナを想う気持ちを隠してきた。
ツナがボンゴレ10代目から降ろされたなら雲雀にとってボンゴレは無用。デボラの守護者などなる気はない。
「赤ん坊、僕はその女の守護者とやらにはならないよ。」
「雲雀、守護者を辞めたら俺様と戦うことも出来なくなるぞ!」
雲雀は腕に付けていた雲のブレスレットを外しリボーンに渡そうとリボーンの前に置いた。
「別に構わない。ボンゴレも守護者も辞めるから。」
それに慌てたリボーン。雲の守護者は雲雀以外有り得ない。
「その話は保留だ!だから雲のブレスレットは雲雀が持っていてくれ!」
リボーンは渡された雲のブレスレットを渡すが雲雀は受け取ろうとしない。仕方なく雲雀の前に置いた。デボラは何とか雲の守護者をしてもらおうと自分の胸の前で両手を組んだ。
「雲雀さん!お願いです!守護者をしてください!私の為じゃなくボンゴレに力を貸してください!」
雲雀は白々しいと思った。ボンゴレの為と言っているがデボラの目は守護者をしろ!デボラの物になれ!と言っていて欲にまみれていた。
「嫌だ。弱い草食動物の言いなりなんてごめんだよ!」
雲雀の拒否の言葉にデボラは嘘泣きを始めリボーンは責める。
「そ、そんな、ヒック、でもボンゴレには、雲雀さんが必要で・・・」
「雲雀!!女には優しくしろ!」
「沢田は戦えたしそれなりに強かったから助けただけ。その女は戦えないでしょ。弱いボス?笑わせるな!」
デボラを見て睨み付け冷笑する雲雀。デボラは嘘泣きから本当に泣き出した。
「ボスになる覚悟なんてないだろ?僕に言われた程度でぐずぐず泣いて見苦しい!」
泣き続けるデボラに吐き捨てるように言った後、デボラを慰めているリボーンの方を見る。
『赤ん坊、落ちぶれたね。』
落ちぶれたとは言え以前のリボーンは自分を楽しませてくれた存在。
雲雀は最後の情けをかけた。
「赤ん坊。仲間の為に戦える沢田と泣くだけが武器の女。どっちが絆を大切にする人間か。どっちがボスの素質があるか。良く考えてみなよ。」
雲雀の問いにリボーンはふんと鼻を鳴らした。
「デボラに決まってるだろうが!それに獄寺と山本と了平は苛めを繰り返すダメツナより相応しいとデボラを認めた!」
少なくても獄寺と山本はツナに命を救われた。それなのにデボラに付いたことに雲雀は驚き、呆れた。
「認めていないのは雲雀だけだ!悪いことは言わねえ、お前もデボラに忠誠を誓え!」
今度は雲雀がふんと鼻を鳴らした。