悪魔


翌日の夕方、会議室でミリアムは不満そうな声を出した。


「えーーーっ!!何その罪状!?」

潜入する為には罪状がいる。

ミリアムは乱闘騒ぎを起こして止めに入った警官を殴って暴行罪しかも前科有り。
ソフィアは日本人とイタリア人のハーフで男性を騙して金品を奪った結婚詐欺罪。
この罪状でツナの居る刑務所に入る。

「ソフィアと随分違うじゃん!あたしそこまで乱暴じゃない!」

違うがどっちもどっちな内容だ。

「潜入出来れば何でも良いだろ。」

玲一は本当に適当に考えた。文句を言うミリアムをソフィアが宥めるが止まらない。

玲一は喚くミリアムを放置して潜入した支部のメンバーと連絡を取りにその場を後にした。


「鉄壁な警備でかなり面倒ですよ。おまけにここの受刑者が先日脱獄しようとしたらしくて新たにセンサーを設置する場所を増やすと。」

刑務所に潜入したメンバーからの連絡に玲一は暫し思案する。

「明後日の夜にミリアムとソフィアがそっちに行くからソフィアを沢田綱吉と同じ雑居房にしてくれ。ミリアムは隣か近くの雑居房に。君はいつでも停電を起こせるようにして。」

「停電を起こしているうちにミリアム達は脱獄ですね。」

「うん。君達は数日後適当に刑務所を出てこれるようにして。」

「了解しました。」


支部のメンバーとの連絡を切るとダンテに明後日ミリアムとソフィアが潜入すると連絡を入れた。


ーーーー

ツナは雑居房の隅で膝を抱えていた。

デボラに陥れられて、家族、家庭教師、友人、先輩に裏切られた結果がこの刑務所。


デボラに暴力を振るって大怪我を負わせたとされてキアロスクーロの力で刑務所に入れられて1ヶ月が経った。

ツナが男性の刑務所に入れられた時、男にしては小柄過ぎると思った刑務官がツナに性別を聞くと女だと返ってきた。確認のために女性の刑務官を呼んで調べさせた。
さすがに女のツナを男性の刑務所には入れられないと女性の刑務所に移動させた。
刑務所の刑務官は書類上のミスでツナが男性と記載されたとた思ったがそのミスで自分が責任を取るはめになるかもしれないと危惧して上層部に連絡を入れていなかった。もし入れていたらデボラの嘘を暴けただろう。


ボンゴレギアと手袋、死ぬ気丸は家光に取り上げられてしまい脱獄したくても出来ない状態だ。
デボラの目的はボンゴレを継ぐことだ。
デボラにとってツナは邪魔者でしかない。

「俺、これからどうなるのかな。」

デボラは邪魔者のツナを一生刑務所から出すことはしないだろう。出された所で汚れ仕事をやらされるだけか幽閉されるかだ。


刑務所の生活は正直怖い。回りは殺人犯や強盗犯等の人間ばかりだ。
ただ此所ならとりあえずリボーン達に暴力を受けることも、奈々に食事を抜かれることもない。それだけが救いだった。



膝を抱えたままツナは座っているとドアが開く音が聞こえた。

複数の足音が響きその音が近付いてくる。犯罪者が来たことを表していた。
ツナの雑居房はツナしかいない。ツナは犯罪者と寝起きなんて出来ないとどうかこの雑居房に来ないように願った。



「208番、半田苑子入れ。」

看守はツナが居る房の鍵を開けると半田苑子と呼ばれたブルネットの髪の女性は大人しく入っていった。ツナは入ってきた半田苑子を見てこれからこの犯罪者と寝起きを共にするんだと愕然とした。

「209番、小林美香入れ。」

看守はツナの隣の房の鍵を開けた。小林美香と呼ばれた黒髪黒目の女性も無言で入っていく。

半田苑子と小林美香は看守に目配せをして、看守は頷いた。

小林美香はミリアムの偽名、半田苑子はソフィアの偽名。
ミリアムは髪を染め、カラーコンタクトで目の色を変えて潜入した。


ソフィアは隅で膝を抱えているツナを見て挨拶をした。

「私は半田苑子。よろしく。貴女は?」

「・・・沢田綱吉です。」

抑揚のない声で答えるツナ。それはそうだろう。一般人として生きてきたツナにいきなり降りかかったマフィアの世界。マフィアの世界に引きずり込まれた挙げ句に嵌められて冤罪で刑務所に入れられたのだから。


『かなり精神的に参ってるみたい。・・・かつての私も沢田綱吉のような人間を生み出していたのね。』


ソフィアはマフィアの頃の自分を思い出して顔には出さないが心の中で昔の自分を罵った。



ツナの隣の雑居房は誰も居なかった為、ミリアムが占領する形になった。

「今ソフィアが沢田綱吉と接触してるのよね。マフィアらしい性格じゃないように祈るしかないな。」


ミリアムは壁に寄りかかって座るとツナのように膝を抱えた。
脳裏に歪んだ笑みを見せるデボラの顔が浮かぶ。



ミリアムの瞳には憎しみと悲しみの色が混じっていた。


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