番狂わせ
ツナが中学3年の時、一人の少女が並盛にやって来た。
「背瀬川椎子です。よろしくね。」
沢田家に挨拶に来た椎子は同じボンゴレの血を汲む者として仲良くしたいとツナと握手を交わしたがツナの手を力強く握り、ツナは手に痛みを感じた。
『痛いっ!』
手を放したツナは椎子を見た。椎子の表情は笑顔だがその笑顔は明らかに作った表情でツナを見下していて、ツナは椎子には関わらないようにしようとした。だが椎子は並盛中に転校した。ツナと椎子が同い年ということもあってボンゴレが並盛中に軽く圧力を掛けて同じクラスにした。
同じクラスになってしまった以上接点を持つことになった。それでもツナは極力関わらないようにしていた。
椎子の目的はツナを退けて自分がボンゴレを継ぐこと。だが自分に近寄らないツナに苛立つことはなかった。何故なら椎子はツナの回りを固めることを優先したからだ。
回りを固めてツナを孤立させボンゴレの座を奪い、奪った後はストレス発散の道具を兼ねた部下にしようと目論んでいた。
椎子が真っ先に狙いを定めたのは獄寺だった。獄寺はツナの右腕だと豪語している。それを利用した。獄寺との会話はツナを褒めればいいだけで簡単だった。獄寺はツナを褒めちぎる椎子を気に入りよく話すようになっていった。
山本と了平に対しても獄寺と同様で簡単だった。ツナと仲良くなりたい、友人になりたいと言っていれば人懐っこい山本と了平は椎子にアドバイスをして仲良くなっていった。
それを見ていたツナは少し寂しかったが自分を見下している椎子に関わるのは嫌だった。
ただツナが一人ぼっちになることはなかった。
親友の京子と花が傍に居た。椎子が来たのを境にツナは京子と花と一緒に過ごすことが増えていき、一方、獄寺と山本、了平は椎子と行動を共にすることが増えた。
ただ椎子との距離があることに気付いたリボーンがツナに椎子と友好関係を築けと言ってきてしまいツナは椎子に怯えつつ椎子達と行動を共にしていた。
椎子が来て三週間が経つ頃、椎子はツナを嵌めようと企てた。
昼休みになり委員会や生徒指導の教師の呼び出し、部活のミーティング等で京子と花、獄寺と山本が教室に居ないのを良いことに椎子はツナの左手首を掴んで使われていない教室に引っ張るように入れた。
教室に入ると椎子はツナの手を放した。ツナは見下した目で見てくる椎子に怯えている。
「あの、背瀬川さん何の用?」
強く掴まれた左手首を右手で擦りながら聞くと椎子はニタニタと笑った。
「お願いがあるの。ボンゴレ10代目候補の座を椎子に譲りなさい。お願いを聞いてくれたら椎子の部下にしてあげる。勿論それなりの待遇は保証するわよ?」
マフィアのボスにはならないと言っているんだから良いでしょ?と付け加ええる椎子。だがツナは超直感で椎子の目的が分かってしまった。
『背瀬川さんがボンゴレのボスになりたいのは本心だけど俺を部下にするのは嘘だ!道具にしようとしてる!!』
マフィアのボスにはなりたくないのは本当だが椎子の道具にされて生きていく気はない。また何も知らない椎子にボンゴレの業を背負わせる気もない。ツナは椎子の話を断った。
「ボンゴレの業を背瀬川さんに背負わせるわけにはいかない。それに俺は背瀬川さんの道具になるつもりはないよ。」
椎子は何故ツナを道具にしようとしていることがバレたのだと焦るがボンゴレの血による能力を思い出した。
「超直感で分かったの?」
頷くことで答えたツナ。椎子はもう一度聞く。
「もう一度チャンスをあげる。ボンゴレの座を渡しなさい。そしてその超直感を椎子の為に使いなさい!そうしたら本当に待遇は保証する!」
ツナは今度は本気で待遇を保証するつもりだと分かったが結局は道具になれと言っているようなものだった。
「断る!ボンゴレの業を背負わせる気はないし道具にはならない!」
「ダメツナの癖に!ボンゴレの業とか訳の分からないこと言って隼人達を一人占めする気ね!!だったら痛い目にあわせてやるんだから!」
拒否された椎子はスカートのポケットからカッターを出して自分の左手の甲を切りつけた後、カッターをツナの足下の方に投げ捨てると教室から飛び出し悲鳴を上げた。
「キャアアアアーーーーッ!助けてぇぇぇぇーーーっ!!」
耳障りな椎子の声が校舎中に響いた。