番狂わせ
ボンゴレボスの執務室で手加減なしで頬を打つ音がする。
頬を打たれた少女は尻餅をつき、頬を打った少女は長い髪をかき上げながらゲラゲラと下品に笑った。
「ダメツナは本当に使えないんだから。」
「ドンナ、あの任務は一人じゃとても無理です。」
「まあ一人じゃ出来ないって分かってだけどね。ギャハハハハッ!」
ボンゴレのドンナである背瀬川椎子は達成出来ないと分かっている任務をツナ一人に押し付け失敗すると罰と称して暴力を振るい嘲笑っていた。
床に座り込んでいるツナの腹を蹴り飛ばした椎子はツナの胸ぐらを掴む。
「いつまで床に転がってんのよ!このグズツナがっ!」
無理矢理立たせるとさっさとこの部屋から出て行けとドアの方を指差しした。
よろめきながら歩いて執務室のドアを開けたツナを椎子は突き飛ばした。突き飛ばされたツナは転ぶ。
「っ!!」
「無様な姿見せてくれてありがとー。ギャハハハッ!」
ツナは立ち上がり椎子に失礼しましたと言って足早に執務室を去って行った。
ツナに与えられた部屋は何もない。強いて言えばトイレとボロボロの毛布があるくらいだ。風呂もあるが会談やパーティーで椎子のボディーガードとして同行する時にしか使わせて貰えない。
ツナは床に寝転んだ。
「・・・お腹空いたな。」
もう2日ほど食べ物をろくに口にしていない。今手元にあるのはペットボトルの水だけ。
ペットボトルの水を飲んでいると乱暴にドアが開きツナは只でさえ顔色が悪いのに更に悪くなった。
遠慮無しに部屋に入って来る人物達は次々と罵った。
「任務を失敗しておきながら何呑気に水なんざ飲んでやがる!」
「てめえのせいで俺達がやることになったじゃねーかっ!」
「本当にお荷物だぜ!」
「極限に迷惑だぞ!」
「リボーン達の手を煩わさないでちょうだい!」
罵るリボーンと獄寺、山本、了平、ビアンキ。
リボーンは自分達の後ろで俯いている女性に声を掛ける。
「京子、お前も何か言ってやれ。」
京子は俯きながら一言言った。
「あまりお兄ちゃん達を、その、困らせないでね。」
小声で言うと京子はツナに近付き、悲しそうな顔でリボーン達が嫌がらせで用意した硬いパンと少量の水を手渡した。ツナは悲しい顔をする京子に口元に少しだけ笑みを乗せた。
京子は痩せたツナの体を見てリボーン達に暴力を振るわせないように行動に出る。
「明日はパーティーがあるんだから沢田さんを制裁するのは止めておこう?椎子さんのボディーガードをするんでしょ?」
武器を手にしようとしていたリボーン達は京子に言われてそれもそうだと言って武器をしまってツナの部屋を出て行った。
京子はツナに声を出さずに口だけを動かした。
〈何も出来なくてごめんなさい。後で食べ物持ってくるね。〉
ツナもまた口だけを動かして答える。
〈いつもありがとう。食べ物をここに運ぶのは危険だからしないで良いよ。〉
京子は首を横に振ってツナの部屋を後にした。
ツナは京子がしようとしていることを止めらず困ってしまっていた。
今まではリボーン達に知られていないが知られてしまえば椎子が京子に何をするのか分からない。只でさえ京子を目の敵にしているのだ。またそれを承知の上で京子は食べ物を渡してくれるのだ。
ツナは俯きながら京子を止められないことを悔やんだ。そして自分を心配してボンゴレ本部に来ることを止められなかったことも後悔していたのだった。