cocktail
奇跡の予感
竜太郎がこの世を去り5年が過ぎた。
閉店間際まで居座る常連の女性客はマティーニをオーダーした。
「ツナ君マティーニ!」
ツナは会話しながらマティーニを作る。
「今日はご機嫌ですね?良いことでも?」
「娘が結婚するって連絡があってねー。」
「おめでとうございます!マティーニです。」
カウンターに置かれたマティーニを見た女性客は飲み干した。
「美味しかったよ。」
ありがとうございますとツナは言うと女性客は今度は娘連れて来るわとほろ酔いでFirmamentを後にした。
「さてお客様もいないしボチボチ片付けようかな?」
ツナはボトルをしまっているとキイとドアが開く音がした。
「あ、あの、まだ大丈夫でしょうか?」
「構いませんよ。お好きな席にどうぞ。」
黒髪の女性客はカウンターに座りツナはオーダーを取る。
「ご注文は?」
「アプリコットフィズを。」
「かしこまりました。」
ツナはアプリコットブランデーとレモンを絞った物、砂糖をシェイクしてグラスに注ぎ炭酸水を加えてステアする。
「アプリコットフィズです。」
「ふふ、綺麗な色ですね。」
黒髪の女性客はアプリコットフィズを美味しそうに飲むと呟くように話出した。
「15年以上も前にある女の子の嘘を信じてしまって大好きな男の子の話を聞きもしないで裏切ってしまいました。それからは彼に酷い言葉を浴びせて時には彼の頬を打ってました。そして去年女の子が嘘を付いていたことを知らされたんです。」
何も言わずに聞いているツナに黒髪の女性客は頭を下げた。
「ツナさん!本当にごめんなさい!謝って済むことではありませんが本当にごめんなさい。ツナさんが女の子を殴ることなんかないって知っていたのに!いつも助けてくれていたのに!それなのに酷い言葉を言ってごめんなさい。殴ってしまってごめんなさい。」
黒髪の女性客は涙を流しながら頭を下げ続け謝罪している。
「頭を上げて?ハル。」
「ツ・・・ナさん・・・・・・。」
ゆっくり顔を上げたハルはツナの顔を見た。ツナは穏やかな顔をしていた。
「ハル。謝ってくれたからもう良いよ。」
「ツナさん!?ハルのしたことは許されません!なのにツナさんは本当に優し過ぎです。」
ツナはポケットからハンカチを出してハルに渡す。
「確かにまだ俺は怒ってるよ。でも謝ってくれたからさ。これで涙をふいて。」
「ありがとうございますツナさん。」
涙をふいたハルは目の前にあるアプリコットフィズを見て自嘲した。
「何であの時、あの気持ちを忘れてしまったのでしょう。」
アプリコットフィズのカクテル言葉。
振り向いて下さい
ハルはツナが京子を好いているのを知っていても振り向いて貰いたい一心で動いていた。
ツナはカクテルを作り出した。
「こちらはサービスです。」
出されたのは夜空を思わせるような青のカクテルのブルームーン。
ハルは当然だと思った。ブルームーンのカクテル言葉は出来ない相談。
お断りを意味するカクテル。
ブルームーンをハルは飲んだ。自分はブルームーンを出されて当たり前なのだからと。
ツナはブルームーンを飲んでいるハルに話した。
「あの頃ハルの気持ちは知ってたよ。でも俺はそういう意味でブルームーンを出したわけじゃないよ。」
「え・・・?」
笑顔でツナは続ける。
「Firmamentって隠れ家みたいなバーだから探すの大変だったでしょ?ここのオーナーだったバーテンダーは腕は超一流だったけど大会とか全く興味なかった人だから有名なバーじゃない。それでもハルは見付けた。それって奇跡じゃない?ブルームーンのカクテル言葉はもう1つあるんだよ。」
奇跡の予感
「そうなんですね。」
ハルはブルームーンを出したツナの真意に気付いた。
「ツナさんお会計お願いします。」
「はい。」
支払いが済むとハルはツナのハンカチを大事そうにバッグに入れて。
「ハンカチ洗って返します。だからその、また来ても良いですか?」
「勿論。待ってるねハル。」
奇跡の予感。ツナはこれから新しい関係を作れるかもしれない。そうハルに伝えた。
ハルはFirmamentを出て深呼吸をした。
「許されたわけじゃない。でもツナさんはハルにチャンスをくれました。新しい関係を作るにはハルの気持ちと行動次第です。」
ハルは歩き出した。
ツナはドアを見てハルと新しい関係を作れるかもしれないと予感した。