琥珀のカナリア
表情を一転させる雲雀に家光と奈々は嫌な予感しかしない。雲雀の表情は口角を上げて愉しそうだった。
「あの子は二度と美那と貴方達には返さない。僕が貰うから。」
「なっ!?」
「ちょっと待て!それは今回の件とは別物だ!」
「別物だろうね。だけどさあの子は沢田の家には帰りたがってないよ。##RUBY#雲雀家#ここ##にいて良いって言ったら安心していた。ついでに言っておくけど僕の両親も使用人達もあの子を歓迎してるから。」
「「!!」」
帰りたがっていないと言われて家光と奈々は自分達のしてきたことがどれほどツナを苦しめていたかのか実感したが更に実感することを見てしまうことになる。
離れの方からまたツナの声が聞こえてきて、家光と奈々は離れの方を見た。
離れの台所から出てきたツナと薫は紅茶とホットケーキを運んで先程の部屋に戻ってきた。
紅茶とホットケーキをテーブルに置くと二人は座った。
「綱吉ちゃんはホットケーキを綺麗に焼くのね!この前のマフィンも美味しかったし煮物も味がちゃんとしみていて美味しかったわ。料理上手なのね!」
「調理実習で作ったことがあって。お母様今度ハンバーグの作り方を教えて下さい。」
「分かったわ。でもお母様じゃなくてお母さんって呼んで欲しいな。」
「でも、お兄さんのお母様だし。」
「お母様って他人ぽくて嫌なの。だから、ね?」
「分かりました。お母さん。」
嬉しそうに笑い合うツナと薫はハンバーグのソースをどんな味にするか話している。
応接間で見ていた家光と奈々は離れにいるツナと薫を見つめて本当の親子に見えてナイフで抉られるような痛みを感じた。
そんな二人を気遣うことなく雲雀は口を開く。
「あの子の傍に常にいた沢田奈々に聞くよ?あの子が料理上手って知ってた?あの子本当に上手だよ。ちゃんと見ていたら直ぐに分かったことだよね?だって通信簿では家庭科は5なんだよ。教師が生徒について書く欄には調理がとても手際が良いと書かれてたよね。」
「・・・・・・。」
「門外顧問に聞くよ?帰国して並中の体育館であの子と再会したときあの子は貴方を見もしなかった。僕の記憶だと僕の隣にいて、牛の子供をあやしていた。養女は振り向いたのにね。」
「ッ!!」
家光と奈々は美那の優秀な所だけを見ていてツナは悪戯好きで困らせる子供と見なしていた。
「貴方達は美那を気にするあまりにあの子を放置した。何かあったら話してくれると安易に考え愛情を与えることさえ放棄した。あの子は砂糖一粒程の愛情さえ与えられずに隣にいた美那をずっと見ていたんだ。」
「「ーーーーッ!?」」
自分達のしてきたことはツナにとっては想像を絶する程の苦痛でしかなったと言われ家光は顔を片手で覆い、奈々は涙を流した。
「それに帰したらあの子はまた声を失って笑顔も陰ってしまうよ。大切な子をそんな家に帰したいと思う?」
自分なら帰すことなど出来ないと言う雲雀に家光と奈々は何も言えなかった。
「諦めて帰ってくれる?」
雲雀はもう話すことはないという態度を取り、家光と奈々に帰るように促し、二人はよろよろと立ち上がり応接間を出ようとしたとき、雲雀は言った。
「今日のあの子の笑顔を見たなら分かるよね?やっと本当の笑顔になったということを。嬉しそうに話す声を取り戻したことをさ。でも貴方達は気付きもしなかったんだろ?」
冷笑する雲雀に家光と奈々はまさにその通りだったと思い何も言えずに退室するしかなかった。そして雲雀家の玄関で靴を履いていると女中達の視線に気付いた。それは軽蔑の眼差しで『貴方達は本当に親なのか?』『小鳥様を見捨てた愚か者』と言っていて漸く家光と奈々は軽蔑されていたことに気付いて項垂れた。
帰宅するとツナの部屋に入り本棚からアルバムを取り出して1ページ1ページ見ていくが美那が来てからのツナの写真を見て愕然とした。
「これは・・・・・・。」
「ツッ君・・・・・・。」
写真に写っていたツナの笑顔は暗く影を落としていた。
今日のような暖かいお日様のような笑顔の写真は無かった。
ーーーー
雲雀家を出ていく家光と奈々を見て雲雀は呟いた。
「謝罪してやり直そうって言ってもね簡単にやり直せるわけがないじゃない。ハッキリ言って小鳥の日常は美那は陥れられ両親モドキには放置されてるだけだった。」
美那に嵌められ家光と奈々には信じてもらえないツナは美那達にやり直そうなんて言われても無理だろう。
雲雀は家光と奈々の愚かさに溜め息を吐いた。