琥珀のカナリア
美那は泣きながらベッドの上で枕を叩き付けていた。
『美那の方が可愛いのに何で美那を嫌いって言うの!?』と思うと涙が出てきた。悔し涙だ。美那はどうやってツナを退けて雲雀を奪うか考えていた。
流れる涙を拭うとぼやけた視界にカレンダーが目に止まった。
11月○日にサインペンで丸印がされて七五三と書いてあった。
「明日は七五三だ。」
数日前に家光が七五三を祝うために帰国して、その時に七五三で着る着物をツナと美那にプレゼントした。
「そうだ!ツナの着物をハサミで切っちゃおう!そうすれば美那だけが着物だもん。絶対あの人は美那の方が気に入る筈!」
美那はオレガノ達と出掛けた家光と買い物に行っている奈々が帰ってくる前にツナの着物を駄目にしようとハサミを持ち出し奈々がしまった箪笥に向かった。
『お母さんはこの箪笥の一番下にしまってたよね。』
箪笥の引き出しを開けてツナの着物を出すとハサミを入れた。
「中々切れない!!」
子供の力で切るのは難しいが美那は一心不乱で着物にハサミをあちこちに入れていく。
「こんなものかしら?」
ツナの着物はそこら中に切れ目が入り裾の方は斜めに切り取られ無惨な姿になった。
ツナの着物を見て美那は楽しそうに笑った。
明日は七五三で着物や帯を奈々は準備しようと夕食の後片付けをして箪笥を開けた。
「二人共可愛いから楽し・・・み・・・・」
楽しみだわと言おうとしたが美那の着物は白い包みでしまわれていたがツナの着物は無造作に入れられていた。
「え?」
奈々はツナの着物を手に取ると目を見開いた。
「ツッ君の着物何でこんなことに!?」
その様子をこっそり見ていた美那は口角を上げるた後、奈々の傍に行った。
「お母さん、あのね、昨日ツナがハサミで切って遊んでたの。美那は止めたんだけどもうハサミで切れてた。気が付くのが遅くてごめんなさい。」
美那が泣きながら言うと奈々は美那のせいじゃないと慰めて家光とツナの部屋に行った。
ツナは部屋で指輪を見てニコニコしていた。
結婚の約束をした雲雀はツナを連れて並盛商店街の雑貨屋に足を向けた。
雲雀とツナは店内に入っていく。
店内の奥の方の棚にアクセサリーが並べられていて雲雀は数個の指輪を見ていた。ツナは初めて入る店に戸惑うが可愛い雑貨があって目をキラキラさせていた。
指輪を物色していた雲雀は一つの指輪を手に取った。
オレンジ色の丸い硝子がはめ込まれ台座に羽がちょこんと付いていた。
『オレンジ色の硝子の横に羽があるのか。小鳥に似合いそうだね。』
雲雀はその指輪と傍に置いたあったチェーンをレジに持っていき会計を済ますとツナに渡した。
「これ婚約指輪。」
「こんやくゆびわ?」
婚約と婚約指輪の意味が分からないツナは首をコテンと横に傾けると雲雀は結婚の約束したら男が女に指輪を贈るんだよと説明した。
「結婚の約束したから小鳥にあげる。」
雲雀は指輪をチェーンに通してツナに付けた。
「小鳥の指はまだ小さいからね。」
ツナは指輪を見て可愛いとはしゃいだ。
「お兄さんありがとう。」
「結婚の約束破らないでね。」
「ツナ破らないよ!」
雑貨屋で婚約した雲雀とツナ。それを見ていた店主と店員達、客は「あの雲雀家の後取り息子が!?」と目が飛び出るんじゃないないかというくらい驚いていた。
「お兄さんがくれた指輪、羽が付いてて天使みたいだなぁ。」
ツナは指輪を見つめていると階段から足音がして美那だったら取られると慌てて机の引き出しにしまった。
ツナの部屋に入ってきたのは怒ったような困ったような顔をした奈々と家光だった。
ツナは奈々の表情を見て美那がまた何かしたんだと俯いた。
「ツッ君、何で着物をハサミで切って遊んだの?」
「ツナ。明日は七五三なんだぞ?それなのにあんな風にしたら着れないだろう?」
ツナは美那が今度は着物を切り刻んだんだと分かった。分かったところでツナは何も出来ない。何を言っても聞いてくれないからとツナは口をつぐむ。
何も言わないツナに奈々と家光はツナの悪戯に小さくため息をして部屋を出た。
「着物、着れなくなっちゃったんだ・・・。」
ツナはベッドに入って体を丸め、雲雀がくれた指輪を握りしめて何で美那は苛めるんだろうと泣いた。
美容室で着物の着付けをして軽く化粧した美那と仕方なく間に合わせのピンク色のワンピースを着たツナは奈々と家光に連れられ並盛神社まで歩いていたが事情を知らない住民は奇異の目で見ていた。
一人は笑顔できらびやかな着物を着て一人は俯いて間に合わせのワンピースを着ている。
「あれって沢田さんのところの子供よね?」
「美那ちゃんは豪華な着物だけど綱吉ちゃんは何で間に合わせみたいなワンピース?」
「もしかして綱吉ちゃんが何か悪戯したから躾でワンピースなのかしら?」
「いくら綱吉ちゃんが悪戯っ子だからってこれはやり過ぎよねー。」
端から見たら差別かと思われる光景。だが奈々は美那の着物姿に喜びツナのワンピースも何とか用意出来て良かったと安堵していて、家光もツナの悪戯には困ったが美那の着物姿に浮かれて周囲の目には気付かなかった。
ツナの気持ちを聞かない、聞こうと努力しない奈々と家光が如何にツナを放置しているのかが分かる。
彼等は美那は両親を亡くしているからその分愛情を注ごうと決めたのは良いがツナは悪戯ばかりして困らされることもあるがある程度放置しても大丈夫、実子だから何かあったら話してくれると無意識に思っていた。
既に美那に虐げられていることに気付かずに。