琥珀のカナリア
正午ーーー
ツナと雲雀とリボーンは9代目の守護者達に案内され9代目の部屋に通された。
「綱吉さん、リボーン、雲雀恭弥君よく来てくれたね。」
穏やかな笑顔で迎えられたツナ達は9代目に促されて席に着いた。
テーブルには美那の時のように紅茶がそそがれて、サンドイッチにケーキにスコーンが盛られ、クッキーやフルーツも皿に盛られていた。
「遠慮せずに食べなさい。」
正直ツナは結果次第でマフィアになるかもしれないという不安から食欲が無かったが傍にあったクッキーを口にした。
雲雀は用意された紅茶と食物に手を付けずに9代目に単刀直入に聞いた。
「結果はどうなの?」
簡潔に聞いた雲雀に9代目は穏やかに結果を言った。
「結果だけを言うならば綱吉さんも美那さんも失格じゃよ。」
「・・・・・・。(えっ!?)」
その言葉に1番ビックリしていたのはツナだが雲雀とリボーンは直感で分かってた。
「リボーンと雲雀君は分かっていたようだね。」
「この子にはマフィアのボスなんか無理だ。」
「まあな。ツナは声が出ねえ上にマフィアに向いてねえし、美那は逃げ回ってただけだからな。そうなるとボンゴレはザンザスが継ぐのか?」
「そうだよ。まだザンザスには知らせてはいないがね。」
ザンザスに継がせると言う9代目に雲雀は苛立ちながら問う。
「それなら最初からザンザスとやらを10代目にしておけば良かったんじゃない?」
おかげでツナは怪我だらけだと言う雲雀に9代目は話を始めた。
「雲雀君の言う通りだ。だがボンゴレは代々血筋で継承してきたファミリーだからね。それがボンゴレの歴史であり、誇りでもある。それをワシの代で継承の形を壊す訳にはいかなかった。だからこそ綱吉さんを候補に上げたのじゃが失声症だと知らされた時点で血筋による継承は難しくなったと分かった。だがボンゴレの血筋ではなくともボンゴレの思想は受け継ぐことは出来る筈だと考えた。そこで美那さんを候補に上げた。」
9代目は一端言葉を切り温くなった紅茶を一口飲むと続けた。
「実は美那さんはボンゴレの血を汲んでいないのだよ。」
「・・・・・・。(どういうこと!?)」
「どういうことだい?」
そこでツナと雲雀は驚き、リボーンは続きを待つ。
「美那さんはインプルストファミリーのドンナであるヴァネッサの娘として通っていたが、ヴァネッサと夫であるキースは抗争中に怪我を負い子供を作れなかった。そしてキースの遠縁に当たるファミリーが敵対ファミリーに潰されて唯一生き残っていたのはボスの赤子を養子に迎えた。その赤子が美那さんだったのじゃ。」
美那の出生に更に驚くツナ、だから何だ?と言いたげな雲雀、そんな雲雀に苦笑しつつも9代目の真意が分かったリボーン。そんなツナ達を見て9代目は静かに続けていく。
「ワシはどちらかが10代目を継いだ時に10代目になれなかった方に右腕として10代目を支えて貰おうと考えていたが、超直感が知らせてきた。綱吉さんはボンゴレの思想を分かっているがマフィアとしては向いていない一方、美那さんはマフィアとしては向いているがボンゴレの思想は壊すだろうとね。そして綱吉さんと美那さんの間に何があるとも知らせてきた。だがその何が分からなかった。ワシも年だ。超直感が衰えてきていると悟った。だからこそリング争奪戦を開き綱吉さんと美那さんと雲雀君達を試したのだよ。」
9代目はツナを10代目に指名したが、ツナは失声症と家光に知らされ、超直感ではツナが継いだ場合早くに命を落とすと知らせてきて。それならばボンゴレの血は汲んでいないがボンゴレと同じ思想を理念にしていたキースの遠縁に当たるファミリーのボスの子供である美那を候補に上げた。
今まで黙っていたリボーンは口を開いた。
「そういうことか。ツナと美那どっちを選んでも構わねえと言ったのは。」
失声症のツナとボンゴレの血筋ではない美那を上げた時に血筋による継承は廃止になる可能性があると9代目は覚悟をしていた。その一方ではボスとして継承の形を守ろうともしていた。
「ボンゴレの思想を受け継ぐ者を後継ぎにしたかったんじゃがそれが反って判断を間違えてしまった。一般人の綱吉さんと美那さんに10代目候補に上げていいわけがない。」
最後にすまなかったと謝罪し頭を下げる9代目。ツナはメモ帳に思ったことを書いていく。ツナの隣に座っている雲雀は9代目に声を掛けた。
「9代目この子が何か書いてるから頭上げなよ。」
雲雀に言われ9代目は頭を上げるとツナはメモ帳を9代目に渡した。
〈はっきり言うとボス候補の話やリング争奪戦は迷惑でした。でも9代目のボンゴレを守ろうとしていたことは分かりました。〉
謝罪に対して許すとも許さないとも書かず、思ったことだけが書かれたメモ帳に9代目はありがとうとツナに言った。
「ありがとう。」
首を横に振ることでツナは答えた。
雲雀はこれで終わったと言うようにツナに声を掛ける。
「もう話は終わったんだ。帰るよ。」
ツナが席を立つと9代目は静かに言った。
「本当にすまなかった。幸せに。」
幸せにと言った9代目。その言葉を聞いてツナは頷き、雲雀は「この子は僕が幸せにするんだから当然でしょ。」と言って部屋を出て行った。9代目はそんな雲雀とツナを微笑んでいた。
ドアが閉まると9代目は表情を変えてリボーンに言った。
「リボーンこれを美那さんに。」
9代目は1通の手紙をリボーン渡した。
「美那にか?」
「彼女には謝罪をしていないからね。美那さんは今色々と考えて苦しんでいるだろうから落ち着いたら渡してほしい。」
「分かったぞ。」
リボーンは手紙を懐にしまうと部屋を後にした。
窓からリボーンがホテルを出て行くのを見届けると隣の部屋に待機していた家光を呼んだ。
隣の部屋のカメラで全て見ていた家光は何とも言えない顔をしていた。
「家光複雑そうにしているね?」
「いえ、そんなことはありません。」
実際家光の心境は複雑だ。娘達はボンゴレを継がないことにもだが次代のボスは穏健派の9代目とは真逆のザンザスだ。しかし決定権は9代目にしかない。
9代目がザンザスが継ぐことを発表したら暫くはボンゴレは荒れるだろうと思いイタリアに戻る準備をしなくてはと考えている家光。それを悟った9代目は家光に休暇を与えた。
「1ヶ月休暇を与えよう。」
「何故です?」
「随分と長いこと休暇無しで働いた家光に褒美じゃよ。たまには父親らしいことをしたらどうかね?」
「しかしザンザスに決定したことを発表したら暫くボンゴレは荒れる筈です!それを分かっていて休んでいる場合ではありません。」
「大丈夫じゃよ。超直感が直ぐに治まると教えている。それにいつも一人で頑張っている奈々さんも喜ぶじゃろう。」
「ありがとうございます。」
だから安心しろと言う9代目に家光は礼を言ってホテルを出て行った。
9代目はふうと息を吐いた。
「この休暇で家光は自分のしていたことが嫌でも分かるだろうね?」
9代目は分かっていた。雲雀が巻き起こす嵐が沢田家に来ることを。