琥珀のカナリア


学校の休み時間、ツナは怯えていた。

「ツナを苛めないで!」

ツナを庇う声は美那。

声が出なくなったツナを数人の男子がからかっていた。

「ツナだって好きで声が出なくなったわけじゃないの!アンタ達だって出なくなるかも知れないのよ!アンタ達も失声症になればいいわ!」

美那に言われて男子達はツナに謝ってスゴスゴと逃げていった。

一部始終を怯えてながら見ていたツナは引き立て役と言うのはこういうことかと分かった。


〈声が出なくなったツナを心配する美那〉を演じる為にツナを利用することにした美那はそれから休み時間になる度にツナのクラスに行って心配するふりをした。

生徒達、教師達の間で優しい子だと評判になった。


ツナはこれ以上は無理だと休み時間になると美那から逃げようと人がいない階段や屋上に行こうとするが美那が許すまいと捕まえに来る。

「ちょっとどこに行く気なの?アンタは美那の道具何だから勝手に動かないで!」

「・・・・・・。」

「早く教室に戻るわよ引き立て役!」

「ーーーッ!!」

笑顔で言う美那。ツナにしてみれば笑顔の美那は悪魔にしか見えなかった。

それは小学校を卒業して中学校に入学しても続いた。


並盛中学校でも相変わらずツナは一人だったが環境は少しだけマシだった。少なくとも授業中は美那が何かをしてこないからだ。

学校はマシだったが家に帰れば美那は毎日陥れようとツナを嵌めて「恭弥君から電話がないみたいね。可哀想~♪」と言われ続けられた。

言われ続けられ、嵌められる毎日に精神的に疲れてしまいストレスが溜まりそれが原因で失声症が治る兆しが見えない。
そして雲雀から連絡が来ない。それでもいつかは帰ってくると信じていたがもしかしたら自分は忘れられたかもと思ったりもしていた。


そんな日々が続いて衣替えで制服が夏用に変わったある日、黒衣のヒットマンがやって来た。

「ツッ君、美那ちゃん。今日ね家庭教師が来るの。この前のママ友のランチ会でこれからは塾とか家庭教師をつけた方が良いって話になってね。」

「家庭教師?」

「・・・・・・。(家庭教師?)」

「お子様を次世代のニューリーダーに育てますってこんなうたい文句見たことないわ!きっと凄腕の青年実業家庭教師よ!」

勝手に妄想する奈々を美那は家庭教師なんかいらないのにと思い、ツナは呆れていると家庭教師がやって来た。


「3時間早く来ちまったが特別に見てやるぞ。」


ツナと美那は黒衣の赤子を見て呆然とした。呆然としている二人を気にせずにリボーンはとりあえず長女であるツナの自室で話すことした。

「俺は家庭教師のリボーン。まあ二人とも座れ。」

ツナはここは俺の部屋なんだけどと思いつつ座ったが、美那は座ろうとしなかった。

「家庭教師?美那はこれでも成績優秀だから必要ないわ。」

そう言って出ていこうとする美那をリボーンが銃で脅す。

「なっ!?」

「本業は殺し屋で俺の本当の仕事はお前らのどちらかをイタリアンマフィア・ボンゴレのボスにすることだ!」

「・・・・・・。(こ、殺し屋!?)」

「マフィアのボス!?」

「俺はマフィア最大規模のボンゴレ9代目からお前らを立派なマフィアのボスに教育して相応しい方を選ぶことを依頼されてんだ。」


ふんぞり反っているリボーンはツナと美那にボス候補だった人間の写真を見せ始めた。

「10代目最有力のエリンコが抗争の中撃たれた。」

「若手No.2のマッシーモは沈められた。」

「秘蔵ッ子のフェデリコはいつの間にか骨に。」


ツナは恐怖で両手で目を隠したが美那はジッと見ていた。

リボーンは二人を見て成程と思った。

『沢田綱吉は一般人らしい反応だ。沢田美那は今は一般人だが元はマフィアの人間。死体くらいは慣れっこってわけか。だがボンゴレボスの素質はまだ分からねえがな。まぁそれは俺様の仕事だ。』


リボーンは写真をしまって言った。

「そんで10目候補として残ったのがお前らだけになっちまったんだ。拒否権はねぇ!」

「・・・・・・。(!!??)」

「・・・分かったわ。」


嫌がるツナにリボーンは「明日から早速修行だぞ!」と行ってリビングに降りていった。


ツナをイタリアに追いやれば奈々の愛情は美那にだけ注がれる。美那をツナを沢田家から追い出す為に了承したにすぎない。

「ツナ、頑張ってね!」

「・・・・・・。(ーーーーっ!!)」

美那はニヤリと笑ってツナの自室から出ていった。


『美那ちゃんは俺を追い出す為だけにマフィアの修行を了承したんだ!俺はマフィアのボスになんかなりたくないのに!!』


ツナは明日からの修行を思うと憂鬱でしかなかった。


ーーーー

美那は自室で如何にツナをボスにして追い出すか考えていた。

「マフィアのボスなんて美那はなりたくないわ!それを回避するためにもダメツナに押し付けないとね。」


幼い頃、インプルストファミリーは敵対ファミリーに潰されてしまった。


銃声、爆音、悲鳴、怒号が聞こえる中、美那はボスの側近に隠れているようにと隠し部屋に入れられた。

抗争は長いこと続いたが暫くすると銃声が止んだ。

こっそり隠し部屋のドアを少しだけ開けると目を覆いたくなる状況だった。

頭や胸部を撃ち抜かれて倒れているのは美那を守る為に隠し部屋に入れた側近達。そしてーーー。

「ママン!?」

こと切れたインプルストファミリーのドンナで美那の母親の遺体があった。

美那は隠し部屋から飛び出して母親に泣きついた。


そこに救援に来たボンゴレの部隊の中に家光がいて。

そして沢田家で育てられてきた。



「美那はお母さんとお父さんと一緒にいたいの!でも実子のツナは邪魔!!」

優しい奈々と頼もしい家光。二人からの愛情を注がれ続けられたい。それには実子のツナは邪魔なだけ。

「ツナは無条件で愛されるわ!でも養子の美那はいつ捨てられるか分からないもの!!」


ツナと奈々の距離を離せば奈々の愛情は美那だけに注がれるだろうと思う美那。

「それにママンが昔言ってた通りならお父さんは門外顧問とかいうボンゴレを監視するような役職についてるはず。だったら滅多にボスになったツナとは顔を合わすこともないわ!それにーーー。」


ボスになったら抗争で死ぬ可能性が高い。

「まともに喋れないツナならあっという間に死んじゃうかもね?そうなれば美那は愛され続けられるわ。」


美那はクスクスと笑っていた。


22/85ページ
スキ