琥珀のカナリア


並盛病院で受診した結果、ツナは失声症だと診断された。

診察室で医師が奈々に告げる。

「お子さんは失声症です。」

「失声症?」

「失声症は主にストレスや心的外傷によるもので起こる症状です。何か心当りは?」

奈々は首を傾げる。
奈々の中でのツナは口数が少ないが悪戯ばかりしているという印象しかない。

「心当りと言われましても。特には。ツッ君はあまり口数が多い方でもないので。それより声は出るようになるのですか!?」

「治療をしたら出るようにはなると思います。ただ個人差があって一週間で完治する人もいれば何年もかかる人もいますから。まずは投薬をしてみましょう。」


奈々はツナの手を繋いで項垂れながら帰宅した。


ツナは自室に入ってハリネズミのぬいぐるみを抱き締めた。

『声出ない。どうしよう!お兄さんから電話がきても話せない!』

そもそも雲雀との出会いでツナは歌わされて誉められた。
声が出ないということは歌えない。

ツナは雲雀と会話が出来なくなったことに恐怖した。


一方、奈々は家光に連絡を入れていた。

「い、家光さん!!」

『どうした奈々!』

「ツッ君が失声症に!!」

『何だって!?それで声は出るようになるのか!?』

「それがストレスが原因みたいで。それに個人差があるみたいでいつ出るようになるかは分からないのよ。」

『声が出ないんじゃツナも辛いだろう。しかしツナは一体どんなストレスを抱えているんだ?』

「それが思い当たらなくて。」

『そうか・・・。治療をしっかり受けさせてやってくれ。』


そう言うと家光は電話を切り、奈々はこの先ツナはどうなるのかと頭を抱え困り果てた。


そして家光と奈々は気付いていない。

美那が来てツナが心を閉ざしてしまってから声を録に聞いていないことに。

笑った時の声、困った時の声、怒った時の声、泣いた時の声、幸せそうに何かを語る声。それらはどんな声だったか?どんな表情をみせていたのか?


家光と奈々はツナを口数が少ない子供と勝手に認識していた。
美那が来る前は楽しそうに話していたツナを忘れて。


ーーーー

奈々から話を聞いた美那はほくそ笑みをした。

『ウフフフフ!声が出なくなったなんて益々ダメダメになっちゃって!恭弥君も声が出せないツナ何か見捨てちゃうかもね!!』


美那はツナの自室に入ると嘲笑った。

「ツナってば声が出なくなっちゃったんだって?ダメダメっぷりが更に磨きかかっちゃって笑える~。恭弥君と話すことも出来なくなったね。もう話すことすら出来なくなったブスツナなんかお母さんとお父さんと恭弥君に見捨てられちゃうかも~?」

「~っ!?」

ツナを傷付ける美那はツナの顔を見て愉快だとゲラゲラ笑う。

「話すことも出来ないアンタは明日から学校でも美那の引き立て役に徹しなさいよね!アハハハハハッ!!」

美那にとっては好都合だと笑いながらツナの自室を出ていった。

ツナは出ていく美那を見ながら愕然とした。

『・・・学校でも俺に嫌がらせするつもりなの!?』

唯一安心出来る学校。そこも美那が荒らしに来ることがわかったツナは絶望的だと俯いた。


ーーーー

雲雀は学ぶことが多すぎてツナと連絡が取れないことに苛立っていた。
文句を言って暴れても恭二にトンファーを取り上げられる。

「並盛に帰りたいなら早く身に付けろ。お前は雲雀家の後取りだ。暫くは連絡禁止だ。」

「クッ!」


恭二の書斎から出ていく雲雀。恭二は荒れ果てた書斎を片付けながら「悪く思うな。これもお前のためになる。」と呟いた。

恭二と薫はツナの状況が劣悪なのを女中頭と女中達から簡単に聞いていた。恭二も薫もとんでもない親がいるものだと怒りを感じ、家光と奈々を軽蔑した。

並盛に帰ったら恭二は補佐をしながら雲雀に並盛を仕切らせようと考えている。仕切らせることはイコール並盛の支配者のようなもの。それを上手く使えばツナを守れることなる。
その為に恭二は雲雀に一刻も早く身に付けて欲しいと思っていた。

雲雀は自室に戻ると家庭教師達が待機していた。

『群れた家庭教師がいるってことは今日も連絡出来ないってことか。苛々するね!』

本当なら家庭教師達をまとめてトンファーで咬み殺したいところだがそんなことをしても並盛に帰るのが遅くなるだけだ。

ツナに早く帰ってくると約束した雲雀は約束を破るわけにはいかないと言い聞かせた。


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