琥珀のカナリア


翌日から音楽会に向けて練習が始まった。

最初はまず覚えて貰う為に楽器を使う園児と歌う園児を別の教室で練習することになった。


歌う園児達はピアノに合わせて歌う。たまに歌詞を間違える園児もいたりもした。

ツナはソロの部分も歌うから他の園児より若干覚える歌詞が多い。その為ツナは一生懸命に歌詞を覚えていた。


美那は羨ましそうにアコーディオンで演奏する園児を見ながらトライアングルを曲の所々で鳴らしていた。


音楽会まで一週間を切ると全体練習になった。

幼稚園のホールには園児が立つ為の壇上が用意されていてそこに整列する園児達。自信のある園児もいれば自信無さげにする園児もいた。そしてふざけて注意される園児もいた。
美那は先頭から二列目の左端に配置されたが、ソロパートのツナは先頭で真ん中に配置された。

ツナはいつも端だったり後ろだったりしていたので先頭の列に立って少し緊張していた。美那はツナの癖に!と内心で悪態を付いていたが。


保育士のピアノの演奏に合わせて園児はそれぞれ担当している楽器で演奏しツナも他の園児と演奏に合わせて歌う。そして暫くするとツナのソロが始まった。

綺麗な声で歌うツナに園児達は驚いた。中には驚きすぎて演奏を止めてしまう園児までいた。
美那もツナの歌声に驚き演奏を止めてしまったがツナの方を見てギリギリと睨み付けるように見た。


『嘘でしょっ!?ツナってばソロパートだったの!?ツナに癖に!てっきり下手くそだと思ってたのに!!』


先頭の真ん中で歌うツナ。それに引き換え美那は左端だ。
目立つのはツナの方だ。しかし保育士達が決めたことだから美那にはどうする事も出来なくてツナを睨み付けるしか出来なかった。


演奏会前日、幼稚園で練習した後、ツナは雲雀家でも練習していた。

「小鳥様、明日は音楽会ですね!」

「小鳥様!頑張って下さいね!」

「私達は音楽会には行けませんが応援します。」


女中頭と女中達に激励されてツナは頑張りますと嬉しそうに言うと雲雀はツナに話し掛けた。

「明日の音楽会、僕は行くから頑張って。」

「本当!?ツナ頑張る!!」

「小鳥の晴れ舞台だからね。」

ツナの頭を撫でる雲雀、嬉しそうに笑うツナ。
二人を微笑ましく見守る女中達。
女中頭はもしかしたらツナと雲雀は結婚するかもしれないと思った。


多忙を極めている雲雀の両親。偶々帰って来た時に「最近の恭弥はどうだ?」と聞いてきて女中頭はこっそり雲雀の部屋からツナとツーショットの七五三の写真を見せた。(どうだ?聞かれて話すより見せた方が分かりやすいと判断した。)


「「・・・可愛い(わね!)」」

何せ雲雀の両親は共に小動物センサーを搭載している。ツナを気に入らない訳がない。
将来はツナを雲雀の嫁にしようと目論む可能性がある。

雲雀家に支えて独身を貫いた女中頭にとってツナは娘や孫のような存在だ。だがその頃には年老いた自分は白無垢姿のツナを見ることはないだろうとふと思った。



音楽会当日ーーー

いつもの幼稚園の制服に黄色いスカーフを巻いた園児達はホールの壇上で整列していた。

保護者達は我が子は何処にいるのかと目で探したりカメラを回りしたりしていた。
奈々は「夏休み前の演劇会は美那ちゃんが主役だったけど今日はツッ君が主役ね!」と少しだけ浮かれてカメラの準備をする。
奈々に気付いた美那は手を振って奈々は振り返した。
ツナはキョロキョロと雲雀を探すと雲雀が笑顔で手を振った。ツナもまた笑顔で手を振った。

奈々はツナにも手を振ろうとしたがツナは雲雀に手を振っていて。

『あら?ツッ君は誰に振ってるのかしら?』

雲雀が来てるとは知らない奈々は不思議に思いつつもツナに手を振った。ツナは気付かなかったが。


音楽会が始まり、保護者達は我が子の成長した姿に感動し、涙ぐむ保護者もいた。

「ツッ君も美那ちゃんも頑張ってるわ!」

奈々は涙ぐみながらツナと美那を交互にカメラを回していた。

そしてツナの出番がやって来た。

透き通って優しく綺麗な歌声。ツナは今までの幼稚園での練習、雲雀と女中頭達と一緒に練習した歌だ。

保護者達は凄いわね!と小声で話だし、奈々はツナの歌声を初めて聞いた。

『ツッ君歌が上手ね!凄いわ!!』

ツナは自分の家では大して練習していなかった。練習しても美那に妨害されるのは分かっていたからせいぜい歌詞を覚えようとしていた程度だ。



音楽会が終わると園児達は仲の良い友達と話したり、保護者はグループでファミレスで昼食を取ったりする段取りを始めている。

奈々はツナと美那を連れてどこかで食べて帰ろうとしたが美那に仲の良い友達が話し掛けて一緒に昼食を食べることになった。

ツナは奈々に手を引かれながら美那と美那の友達と一緒に食べるのは嫌だった。
美那の友達は問題ないが美那は嫌がらせをしてくる。今までもわざと調味料を大量にかけられたり、コップをツナの方に倒したりしてきた。そしてごめんねと言われて誤魔化される。

『今日は外で食べるみたいだからコップを倒されるのかな。』

憂鬱になっていると雲雀が声をかけた。

「小鳥。歌凄かったよ!」

「お兄さん!」

ツナは奈々から手を放して雲雀の元に歩いていく。

「頑張ったね!」

雲雀に誉められて照れるツナ。雲雀は奈々の方に向き直る。

「これからこの子と僕の家で昼食を取りたいから連れていっても良い?」

さすがにこれは奈々が難色を示した。これから美那の友達と保護者で食べに行く予定。ツナだけを他の場所で過ごさせられないし、これを機会に雲雀以外の友達をツナに作らせたいと思っていた。ツナにしたら余計なお世話だが。

奈々は断ろうとするが保護者の一人が奈々に小声で言った。

「綱吉ちゃん行きたそうな感じだし。下手に雲雀家の子に逆らうのも・・・ね?」

雲雀家は並盛の地主だ。逆らって機嫌を損ねるのも不味いと言われ奈々は渋々了承した。
(別に雲雀家の人間はその程度で機嫌を損ねたりはしない。住民が恐れているだけで。)


「それじゃ行こうか?」

「うん!」


手を繋いで歩いていくツナと雲雀。いつもの光景に美那は『何でツナなの!?』と唇を噛んでいた。


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