琥珀のカナリア


冬休みが終わると並盛幼稚園の保育士達は頭を悩ませていた。

並盛幼稚園では卒園式の前に餅つき大会がありその後に音楽会という行事がある。
園児達が合奏したり合唱したりするのだが。

「どうしましょう?」

「下手に選ぶと保護者からクレームが来ますしねー。」

「モンスターペアレントには毎回困りますよね。」

「とりあえず保護者を同伴させてジャンケンをさせて歌うか楽器を選んでもらいましょう。」

保護者同伴ならクレームも少ない筈。次の問題は楽器に合わせて合唱をするのにソロで歌う園児を決めなくてはならない。

「まずは何かしらで活躍した園児は外しましょう。」

「それもそうね。」

実際、同じ子供が演劇会の主役や遊戯で他の園児とは違う衣装で先頭で踊ったりするのをよく思わない保護者もいる。それが元で揉めたりもするのだ。

演劇会の主役や準主役をやった子や運動会でリレーのアンカーや応援団をやった子、幼稚園内での展覧会で賞を取った子と活躍した園児を外していくとツナが残った。

「綱吉ちゃんはまだ何もやってなかったんだわ!」

「だったら綱吉ちゃんに音楽会でソロパートをやってもらっていましょう!」


ウサギ組の保育士はツナを呼んでソロパートの話をした。
ツナは一人で歌うことに不安そうにしたが保育士は「綱吉ちゃんは上手だから大丈夫よ!」と励ましてツナは頑張ってみようと決めた。

そして保育士はツナの連絡帳にその旨を書き、奈々は素直に喜んだ。因みにこの事を知っていると思っていたから奈々は美那に言わなかった。



一週間後、保護者同伴の楽器選びでは美那は最初アコーディオンを希望したがジャンケンで負けて、他の楽器も負けたりして最終的に一番簡単なトライアングルになった。
トライアングルなんてつまんないなと思っているとそういえばツナは何の楽器なんだろうとふと思った。
ツナは奈々の隣にいてジャンケンをしていなかった。

「ツナは何の楽器なの?」

「・・・歌だよ。」

「ツッ君は歌うから楽器はやらないのよ。」

「ふーん。そうなんだ。」


美那はどうせツナのことだ。その他大勢の中で歌うだけで決してソロパートではないと思った。


この日は保護者もいるということで幼稚園から家が近い園児は歩きで帰ることなりツナは奈々に手を引かれるが奈々は美那と話してばかりで、ツナは無言で歩いている。

美那はツナをちらりと見て勝ち誇っていた。ツナはそんな美那に気付いて俯くが雲雀にソロパートをやることになったと報告したい気持ちが大きかった。


家につくとツナは着替えて硝子の指輪を首に掛けて待ち合わせ場所の公園に向かった。


公園で暫く待っていると雲雀が公園に入ってきてツナは駆け寄り雲雀は抱き抱えた。

「お兄さん!ツナね音楽会でソロパートをすることになったんだ!」

「本当かい?」

「うん!明日から幼稚園で練習するの!」

「小鳥は上手だから大丈夫だね。」

「でも本番は沢山人がいるんだよね?ドキドキするよ。」

眉を八の字にして言うツナに雲雀は提案した。

「今から緊張しないように練習しようか?僕の家は人が山程いるからね。」

山程いる人とはツナを可愛がっている女中頭と女中達のことだ。


雲雀はツナと手を繋いで屋敷に戻った。




女中頭は仕事をしていたが雲雀は休憩中の女中達を集めた。ツナは知っている女中達だが少し緊張しつつも歌った。
歌い終わると女中達は拍手をした。


「小鳥様、とても上手でしたよ!」

「幼稚園の音楽会は成功します!」

「大きくなったら音楽の学校に通われてるかも知れませんね!」


女中達が本当にそう思うくらいツナの声は優しく透き通っていてまるでハルモニアのようだった。


雲雀も音楽系の学校に通えば今より能力は伸びるだろうと思った。

『小鳥が将来音楽学校に行くなら僕も行こうかな?』


(例え雲雀に歌の才能が無くても並盛近辺ならごり押しで通えるだろう。)


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