儚き者達
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少女に笑顔を向ける息子。天変地異が起こるより衝撃的な光景。
自分達が知る息子は「噛み殺す!」と暴れ回り見せる笑顔は獰猛な獣の様。
それが向かいに座っている少女に優しい笑顔を見せている。
そんな恭矢にただただ驚くしかない。
しかしこれはある意味恭一と静香にとってチャンスだ。
夫妻は恭矢の人嫌いに頭を抱えていた。
集団を見ると「鬱陶しい」と暴れ、女、子供は「弱い生き物」と一括りにして見向きもしない。
そんな恭矢が連れて来た少女は雲瀬家にとって救世主。この少女を逃したら雲瀬家は絶えてしまう。
恭矢が見初めたであろうあの少女に嫁に来てもらえれば安泰だ。少女が庶民でもこの際関係ない。
だがそれには一つ問題があった。
「あの子なら恭矢は拒むことは無いでしょうけど、杏子(きょうこ)さんに何て言えば良いのかしら?」
困ったような顔をする静香に恭一は暫し考える。
古くから付き合いのある佐々川家(ささがわ)から来た縁談。
杏子のことは昔から知っていた。
優しく気立てが良い。そして恭矢のことを慕っている。
杏子が慕っているなら何とかなるだろうと婚約させたが恭矢は無関心。
杏子が話しかけても適当に聞き流し、内容は覚えていない。機嫌が悪いと暴れはしないが無視する始末。自分を恋慕っている杏子も恭矢にとっては「弱い生き物」だった。
杏子は恭矢を想っても恭矢はその想いを返さない。
「杏子さんがこの家に嫁いでも辛い思いをするだけだ。婚約は破棄しよう。幸いまだ大々的に周囲には知らせていないし謝罪金を払おう。」
「杏子さんには悪いことをしてしまったわ。でも恭矢の嫁になって悲しい思いをするなら別の方と夫婦になった方が良いでしょう。」
恭一と静香は杏子を昔から知っているからこそ幸せになって欲しいと。辛い思いをしないで欲しいと。
このことが原因で今までの関係に亀裂が入るのも覚悟の上の決断だった。
ケーキを食べ終わった津奈は雲瀬家の庭の美しさに見とれそれを何となく察した恭矢と庭を歩いていた。
「本当に綺麗な庭ですね。」
季節の花が咲き乱れ樹齢何年だと思うくらいの桜も満開だ。
「津奈の家には庭はないの?」
「ありますけど、庭の半分以上は薬草です。」
優雅な庭ではなく薬にするための庭だとぼやく津奈。
「気に入ったならまた此処に来れば良い。津奈ならいつでも歓迎するよ。」
「ありがとうございます。」
津奈ははにかんで頬を染め、恭矢は津奈の可愛らしい仕草に笑顔を見せていた。
ある美人な少女は雲瀬家に来て呼鈴を鳴らし出てきた使用人に尋ねる。
「恭矢さんはいますか?」
使用人は「取りつぎますので少々御待ちください」と頭を下げて庭に向かう。
庭に入って来た使用人に恭矢は不機嫌そうに近付く。
津奈は少し離れた所で桜を見るのに夢中だ。
「恭矢様、杏子様がお見えです。」