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ちかてつおりたら

 都営大江戸線が練馬の駅で停車し、彼もそこから下車をした。特にこれといった用があったわけではなかったが、たまには接続先の路線を見ようかという気分になったのかもしれない。
 彼……大江戸線は入場券を購入し、西武鉄道のホームへと足を踏み入れる。地下深くにある大江戸線とは逆に、西武のホームは高い所にあり、改札内の階段を上り切った大江戸線は、明るさに少しレンズの下の目を細めた。
 ホームの先端へと足を進めると、線路の先と空が視界いっぱいに広がり、丁度吹いてきた風が頬を撫でて行った。
「とえいのすえっこがめずらしいな」
 声を掛けられ振り返り見下ろすと、西武有楽町が立っている。小さいが大江戸からすれば路線の先達である。
「お邪魔してます」
 大江戸線が丁寧に頭を下げて挨拶をすると、西武有楽町は満足げにふふん!と笑った。
「ここは風が気持ち良いですね」
 自分のホームにはない、自然の風と光。羨ましいかは別として、良いものだとは感じる。
「うむ! いつでもきていいぞ!」
 何本か行き来するのをふたりで見送った後、戻ろうと並んで歩いていると、
「こんにちは、珍しい組み合わせですね」
改札階へ降りる階段の手前で、副都心線が声を掛けてきた。彼は西武からすれば直通先であり、乗り入れもしているためこの駅も勝手知ったるものだった。
「こんにちは」
「ひとりとはめずらしいな」
 軽くひとしきり挨拶を交わすと、副都心はふたりに、
「もう少しお時間あれば、僕もご一緒したいです」
おごりますよ、とホームの自販機を手で示して誘う。
 大江戸線と西武有楽町は、一瞬顔を見合わせてから副都心に向かって首を縦に振り答えた。
 結局、各々自分の分を自分で購入し、言い出しっぺの副都心を挟む形でホームのベンチに並んで座る。
「何か用でも?」
「いえ別に」
 大江戸線の問いにしれっと答え、缶のココアを一口すすると副都心はふーっと息を吐いた。
 そんな様子を怪訝そうに見る西武有楽町と目を合わせ、副都心はニッと目を細めて笑うと、
「たまには末っ子同士で、ゆっくり過ごしたい事もあるんですよ」
たまには、を強調して告げる。
 副都心の言葉をどう解釈したのか、西武有楽町は頭の上に『!』マークを浮かべ、堂々と勧誘する。
「そうか、せいぶにはいりたくなったらいつでもいうといい!」
「いえ、それは遠慮しておきます」
 突然の西武有楽町と、食い気味に即返事をする副都心の様子に、大江戸線はフッと目元を緩めながら缶コーヒーを口に運んだ。
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