アヒールタイム
イギリスでの全行程を終了し、あとは空港から飛行機に乗って帰るのみとなる。
大きな鞄やキャリーバッグ等を預け、手荷物のみになって機内へ乗り込むと、玄武は搭乗券の席番号を頼りに席を探す。
「俺はここか」
窓際の席に着くと、続いてその隣に薫が座る。席に着くなり手荷物から使い捨てマスクとアイマスクを取り出し、準備万端といった様子である。
ポケットからアヒルを取り出し、玄武はそっと窓の外が見える位置へ彼を置く。
『お前、これから空を飛ぶんだぜ』
博物館の土産物売り場から玄武のポケットへ迎えられたアヒルが、これから空を飛んで海を越えて遠い島国の日本へと向かおうとしている。その事実に玄武は少々の緊張をおぼえた。イギリスで舞台に立った時とはまた違う種類の緊張だった。
『日本で待ってる、人間の相棒にも合わせてやるからな』
心の中でそう呼びかけ窓から外を見ると、出発の時間が来たようで、振動と共に景色が流れ始めてどんどん加速してゆく。
離陸すると周りの景色がみるみるうちに小さくなってゆく。ライブを行った会場はどのあたりだろうか、と目を動かしているうちに、雲の中へ入ったのか何も見えなくなり、少しの後、
「……空だ」
何も遮るもののない、真っ青な空の下へと飛び出した。
玄武がそのように配置した為ではあるが、アヒルの視線も青い空へと向けられている。
『朱雀に会ったら何から話そうか』
青い空を眺めながら、イギリスの旅を最初から順に思い返しているうちに、玄武はすやすやと気持ちよく眠りに落ちていった。
しばらくの時間が経った後。
「……君、黒野君」
玄武を呼ぶ薫の声が聞こえる。寝ちまってたか、とうっすら目を開くと、目の前にアヒルの顔が迫っており、驚きでぱっちりと目を見開いた。
「もうすぐ到着するぞ、そろそろ支度を」
「薫……アニさん」
薫がアヒルを手に、玄武を起こしていたと把握するのに少々時間を要した。礼を言って薫の手からアヒルを受け取ると、窓の外には陸地の姿がはっきりと見えている。
『これが日本だぜ』
窓の外をアヒルにも見せてから、ポケットへと収める。寝ている間にすっかり凝り固まってしまった身体をぐっと伸ばし、少し離れていただけの筈がずいぶん懐かしく感じるもんだ、と玄武は到着を心待ちにしながら思った。
「これがイギリスのオレかぁ!」
帰国後初めて会った朱雀に、ポケットから取り出したアヒルを渡すと、胴上げでもするかと思われる勢いで腕を伸ばして高々と上へ掲げた。
「そっくりだろ?」
楽しそうな朱雀の様子を眺め、嬉しそうに笑みを浮かべていた玄武だったが、ある一点に気付いて笑みが消えた。
「まずい……っ、やめろ、にゃこ……ックション!」
「わああぁっ! なんだぁっ!?」
朱雀の肩の上、獲物を狙う鋭い目でアヒルを見つめ、今にも飛びかかろうかという構えを取っていたにゃこに、気付いた時は既に遅く。
一瞬後には、もつれ合って床に転がる二人と、ご満悦でアヒルを咥えるにゃこの姿がそこにあった。
大きな鞄やキャリーバッグ等を預け、手荷物のみになって機内へ乗り込むと、玄武は搭乗券の席番号を頼りに席を探す。
「俺はここか」
窓際の席に着くと、続いてその隣に薫が座る。席に着くなり手荷物から使い捨てマスクとアイマスクを取り出し、準備万端といった様子である。
ポケットからアヒルを取り出し、玄武はそっと窓の外が見える位置へ彼を置く。
『お前、これから空を飛ぶんだぜ』
博物館の土産物売り場から玄武のポケットへ迎えられたアヒルが、これから空を飛んで海を越えて遠い島国の日本へと向かおうとしている。その事実に玄武は少々の緊張をおぼえた。イギリスで舞台に立った時とはまた違う種類の緊張だった。
『日本で待ってる、人間の相棒にも合わせてやるからな』
心の中でそう呼びかけ窓から外を見ると、出発の時間が来たようで、振動と共に景色が流れ始めてどんどん加速してゆく。
離陸すると周りの景色がみるみるうちに小さくなってゆく。ライブを行った会場はどのあたりだろうか、と目を動かしているうちに、雲の中へ入ったのか何も見えなくなり、少しの後、
「……空だ」
何も遮るもののない、真っ青な空の下へと飛び出した。
玄武がそのように配置した為ではあるが、アヒルの視線も青い空へと向けられている。
『朱雀に会ったら何から話そうか』
青い空を眺めながら、イギリスの旅を最初から順に思い返しているうちに、玄武はすやすやと気持ちよく眠りに落ちていった。
しばらくの時間が経った後。
「……君、黒野君」
玄武を呼ぶ薫の声が聞こえる。寝ちまってたか、とうっすら目を開くと、目の前にアヒルの顔が迫っており、驚きでぱっちりと目を見開いた。
「もうすぐ到着するぞ、そろそろ支度を」
「薫……アニさん」
薫がアヒルを手に、玄武を起こしていたと把握するのに少々時間を要した。礼を言って薫の手からアヒルを受け取ると、窓の外には陸地の姿がはっきりと見えている。
『これが日本だぜ』
窓の外をアヒルにも見せてから、ポケットへと収める。寝ている間にすっかり凝り固まってしまった身体をぐっと伸ばし、少し離れていただけの筈がずいぶん懐かしく感じるもんだ、と玄武は到着を心待ちにしながら思った。
「これがイギリスのオレかぁ!」
帰国後初めて会った朱雀に、ポケットから取り出したアヒルを渡すと、胴上げでもするかと思われる勢いで腕を伸ばして高々と上へ掲げた。
「そっくりだろ?」
楽しそうな朱雀の様子を眺め、嬉しそうに笑みを浮かべていた玄武だったが、ある一点に気付いて笑みが消えた。
「まずい……っ、やめろ、にゃこ……ックション!」
「わああぁっ! なんだぁっ!?」
朱雀の肩の上、獲物を狙う鋭い目でアヒルを見つめ、今にも飛びかかろうかという構えを取っていたにゃこに、気付いた時は既に遅く。
一瞬後には、もつれ合って床に転がる二人と、ご満悦でアヒルを咥えるにゃこの姿がそこにあった。
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