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かみしの

 オフの日の昼間、315プロ事務所。
 神谷と東雲は、仕事で気になる事があり、確認の為に事務所を訪れていた。
「ふぅ、これでやっとスッキリした」
 資料をバサバサとテーブルに置き、神谷はぐったりとソファの背もたれに身体を預けた。
「ですね」
 置かれて乱れた資料を手に取り、トントンと揃えると東雲はぬるくなったインスタントコーヒーの、最後の一口をぐっと飲み込む。
 そのコーヒーは先程、事務員の山村が自分の分を淹れるついでと言って二人分持ってきてくれたものだった。
「明日皆さんにも伝えましょう」
 そう言って席を立とうとすると、事務所入り口の扉が開き、誰かが入って来るのが見えた。
「おはようございます」
 東雲が先に挨拶をすると、声で二人に気付いた神速一魂の黒野玄武が素直に挨拶を返し、首を傾げて聞いてくる。
「荘一郎アニさんに幸広アニさん、今日はどうしたんだ?カフェパレードはオフだと聞いていたが……」
「俺もそう聞いたぜ?プロデューサーさんが言ってたな」
 紅井朱雀も二人に頭を下げて挨拶をした上で、そう付け加える。
 神速一魂の二人のやりきった満足そうな表情と、手にしたコンビニ袋の中に透けて見える沢山の菓子類で、彼らが仕事帰りだという事が容易に見て取れた。
「仕事お疲れ様、二人が嫌いじゃなければ、紅茶でも淹れようか?」
 神谷の申し出に、朱雀も玄武も嬉しそうに眼を輝かせる。返事は口に出さずとも手に取るようにわかった。
「手伝います、神谷」
 支度に向かった神谷に、東雲は手伝いを申し出て席を立つ。
 神谷と東雲が紅茶を淹れている間、少し離れた所で邪魔をせぬよう、プロの手際をじっと見つめる朱雀と玄武。
 傍から見ればメンチを切っているように見えるが、本人達は至って真剣に、興味津々であった。
「どうぞ」
 四人分の紅茶が、テーブルの上で湯気を立てる。
「ありがとう」
「うう……感動だぜ」
 ここまで大袈裟に喜ばれると、神谷も東雲も悪い気はしない。
「アニさん方の口に合うかどうかはわからねえが、俺達からはこいつを出すぜ」
「紅茶の礼だな!」
 コンビニ袋の中にガサガサと手を入れ、次々と色とりどりのパッケージの菓子を取り出す二人。
「あ、懐かしいなこれ」
 神谷が手に取ったのは、小さなドーナツの駄菓子。
 どれどれと東雲も覗き込み、目を細めて微笑む。
「学校帰りの買い食いの定番ですね」
 開封し、四人でそれぞれ一つずつつまむ。
 小さなそれは、一口で全てが口に収まってしまうが、口の中での存在感と甘さはとても大きい。
 東雲が、ドーナツと一緒に神谷の淹れた紅茶を口に含むと、過去と現在が混ざり合って何とも不思議な感覚になる。
「やっぱりみんな食うんだな、コレ」
 そう言って朱雀が嬉しそうにニッと歯を見せて笑う。駄菓子と紅茶が混じったような、この人生を送ってこなければ、神速一魂の二人ともこうして紅茶を飲みながら談笑する事も無かっただろう。
「そうですね、今気付きましたが紅茶にも合って美味しいです」
「明日から店でも出すか?」
 神谷が冗談を言うと、東雲は即座に返す。
「そんな事になったら、私の仕事がなくなるじゃないですか」
 そのテンポ良いやり取りに、神速一魂の二人はおお、と見とれていたが、
「俺達も負けてらんねぇな!」
「ああ、トークの練習が必要だな」
と、謎のやる気を出している。
 やる気に熱く燃える二人を不思議そうに見ていた神谷と東雲は、見ているうちに段々可笑しくなってきて、顔を見合わせて笑うのだった。
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