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トレンチコートが嫌いだ。
トレンチコートを見ると、嫌でもあの男を思い浮かべてしまう。
私の中でトレンチコートとあの男はもはや同義だった。
あの男──太宰──が我らポートマフィアと袂を分けたと聞かされた日。
家に帰ってクローゼットを開けた瞬間目に入ったトレンチコート。
もちろん私物だ。
ごく一般的な就活生の一人だった私の、模範的、量産的格好をしていた私の、持ち物。
学生身分の私にとってそれなりに値の張る買い物だったからと、無事社会人になってからも、愛用していたそれ。
それは、気づいたら灰になっていた。
私が、異能力で灰にしてしまっていた。
トレンチコートと同じ質量の分だけ足元にたまった灰。
……何をやってんだか。
こんなに感情的に異能力を使ってしまったのは久しぶりだった。
子供じゃあるまいし。
こんなことでいちいち心乱されていてはポートマフィアは務まらないぞ。
ひとつため息をついてから、それをごみ袋に入れ始めた。
ほうきとちりとりはこの家にない。
両手で掬っては、ごみ袋に入れる、とてもとても地道な作業を、黙々と続ける。
途中、舞い上がった灰がくしゃみを引き起こし、さらに舞い上がった灰が目やら口内やらに入って咳こんだ。
涙が出たのは、そのせいに違いない。
それからは、灰になってしまったトレンチコートの代わりに、黒のジャンパーを着ることにした。
中也は一度、眉をひそめたが「似合ってるぜ」と言ってくれた。
彼は「優しくて良い人」だ。
そして現在、目の前に佇む男は……
「あれ、君、トレンチコートはやめたのかい? 今すぐ脱いでしまいなよ、そんな趣味の悪い服」
灰にしたくなるほどさわやかな笑みを浮かべている。
「よく言うわね、私の気持ちを知っていて」
「君の方こそ、中也の気持ちを知っていて、そんな服を着ているのかい?」
「アンタなんか、あの日、穴だらけになっちゃえば良かったのに」
そしたら今も、あのトレンチコートは、私のクローゼットにあったかもしれない。
あーあ、プリーツが入ってて裏地のチェック柄もかわいくて、就活用にしては攻めたデザインだったけれど、気に入ってたんだけどなぁ。
それでもやっぱり、太宰はいつかは私と袂を分けただろうし、あのトレンチコートもいつかは灰になったんだろう。
あーあ、トレンチコートなんて、気に入らなければよかったのに。
トレンチコートを見ると、嫌でもあの男を思い浮かべてしまう。
私の中でトレンチコートとあの男はもはや同義だった。
あの男──太宰──が我らポートマフィアと袂を分けたと聞かされた日。
家に帰ってクローゼットを開けた瞬間目に入ったトレンチコート。
もちろん私物だ。
ごく一般的な就活生の一人だった私の、模範的、量産的格好をしていた私の、持ち物。
学生身分の私にとってそれなりに値の張る買い物だったからと、無事社会人になってからも、愛用していたそれ。
それは、気づいたら灰になっていた。
私が、異能力で灰にしてしまっていた。
トレンチコートと同じ質量の分だけ足元にたまった灰。
……何をやってんだか。
こんなに感情的に異能力を使ってしまったのは久しぶりだった。
子供じゃあるまいし。
こんなことでいちいち心乱されていてはポートマフィアは務まらないぞ。
ひとつため息をついてから、それをごみ袋に入れ始めた。
ほうきとちりとりはこの家にない。
両手で掬っては、ごみ袋に入れる、とてもとても地道な作業を、黙々と続ける。
途中、舞い上がった灰がくしゃみを引き起こし、さらに舞い上がった灰が目やら口内やらに入って咳こんだ。
涙が出たのは、そのせいに違いない。
それからは、灰になってしまったトレンチコートの代わりに、黒のジャンパーを着ることにした。
中也は一度、眉をひそめたが「似合ってるぜ」と言ってくれた。
彼は「優しくて良い人」だ。
そして現在、目の前に佇む男は……
「あれ、君、トレンチコートはやめたのかい? 今すぐ脱いでしまいなよ、そんな趣味の悪い服」
灰にしたくなるほどさわやかな笑みを浮かべている。
「よく言うわね、私の気持ちを知っていて」
「君の方こそ、中也の気持ちを知っていて、そんな服を着ているのかい?」
「アンタなんか、あの日、穴だらけになっちゃえば良かったのに」
そしたら今も、あのトレンチコートは、私のクローゼットにあったかもしれない。
あーあ、プリーツが入ってて裏地のチェック柄もかわいくて、就活用にしては攻めたデザインだったけれど、気に入ってたんだけどなぁ。
それでもやっぱり、太宰はいつかは私と袂を分けただろうし、あのトレンチコートもいつかは灰になったんだろう。
あーあ、トレンチコートなんて、気に入らなければよかったのに。
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