酒とは多少なりとも人を素直にするものだ
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「リゾット、遅かったのね」
「...あぁ、まだ起きてたのか」
「一度ベットに入ったんだけど、眠れなくって」
戦利品のワインを飲み始めて早1時間。時間は既に深夜2時を回ったところだ。どうにも今日は寝付けない日のようで、皆と飲む予定だったワインを1本だけ開けてしまった。
薄暗い黄味を帯びたライトと、煌々と光るテレビに目を細め、退屈だなぁとワインを6割ほど流し込んだ所に丁度リゾットが戻った。
目を凝らすと多少の返り血らしきシミがあるが、見たところ彼自身は擦り傷ひとつ持ち帰って来なかったようだ。危険度の高いものは圧倒的にリゾットの案件として降りてくることが多いが、完璧に仕事をこなす彼の冷静さとスタンド能力が相まって、幹部からの評価はかなり高い。もちろんチーム内からも尊敬し、慕われている。
そんな彼だが、今日は珍しく疲れているように見える。何事かと彼の動きを目で追うと、帰って早々コーヒーを淹れようとしているではないか。
深夜の2時にコーヒーなんて、一体何を考えているのか。
「疲れているのは分かるけど、この時間にコーヒーなんて飲んでどうするの?」
「幹部に報告する情報が纏まらなくてな、寝る時間が惜しい」
「リゾットは真面目すぎるわ。頑丈だけど身体を壊したら元も子もない」
「まあ、そうだな...早く済ませたい所ではあるが」
「シャワー浴びて、一緒に飲まない?私が明日手伝うわ」
「...そうだな、だが悪酔いしないと約束してくれ」
「ええ、分かってるわよ」
いってらっしゃーいと気だるげに手を振って浴室に見送った。
「リゾットにもこれあげるわ」
「レ ペルゴーレか」
「そうそう!なかなか良い戦利品でしょう」
「頂こう」
シャワーを浴びたリゾットが戻った。
ずいぶん早いと思ったら、髪は乾かしてないのかまだ少し湿っている。いつもの頭巾をかぶっていないと全く別人に見えるから不思議なものだ。
隣に座ったリゾットにワインを注ぐと、勿体ぶるそぶりもなく、赤いそれは一瞬で喉を通っていった。
「トスカーナのワインは美味いな」
「味わってよ!結構良いものなのに」
「ユリカに飲もうと言われてから、気が抜けるどころかワインに気が向いてしまってな」
「うふふ、何それ。もう少し肩の力抜かないと四十肩になるわ?」
「俺を今幾つだと思ってるんだ?お前は」
「貫禄だけは私の父親同然よ」
「それは喜んで良いのか?」
「もちろん!褒めてるつもり」
リゾットにしか甘えられないこともあるの、と肩に寄りかかった。少しばかり酔いが回っているせいで、小一時間前まで冴えていた頭には随分とアルコールが回っているような気がする。
リゾットは特に嫌な素振りもせずに、テレビに目を向けながら淡々とワインを流し込んでいる。少し座高が高いものの、お陰で随分と寄りかかりやすい。
「...私、いまだにプロシュートに拾ってもらって良かったと思うわ」
「こんな道に足を踏み入れたのに、呑気なものだな」
「ふふっ、いいのよ。別に行く当ても生きる術も大して持っていなかったもの」
リゾットの静かなトーンに、時折目を閉じそうになりながら答えた。
あれから何年も経った今ですら、あの路地裏で感じた恐怖は忘れられない。暗殺者である今、あんなチンピラに恐怖を覚えることは無くなったが、あの時は確かにもう終わりかもと感じたのだ。
それと同時にエトロの香りも同時に鼻にこびりついていた。だらしなく服の乱れた私に、肩からジャケットを羽織らせた時から私は彼に惹かれていた。
あれから何度か、プロシュートにはなぜ助けたのかと聞いても気分だとしか教えてくれなかった。ここ最近ではもう聞くこともないが、理由はなんでも良いと思っている。父も母も、最後に私を育てた祖母にも、今の私をよしとするとは思わないが、私にとってはここが居場所で、みんなが家族なのだから。
「私にとってチームの皆は大切な家族なの」
「ユリカがいるから集まるんだろうな、このアジトに」
「そう?」
「妹みたいな感じだろうな。ペッシはまぁ、別だが」
「ペッシは弟ね。プロシュートはずっと私の命の恩人よ。ホルマジオとイルーゾォはお兄ちゃん。ギアッチョとメローネは歳が同じくらいだから、意外と兄弟みたい。リゾットは大黒柱ね」
「それを聞くと、集まった時に騒がしくなるのも頷けるな。プロシュートだけはまた別枠のようだが」
「......プロシュートは、別なのよ」
図星だな、と言われてふにゃりと笑い返せば、彼は小さく笑って頭を撫でてくれた。(調子に乗ってパードレと呼んだら普通に小突かれたけど。)
深夜も3時を回って、2本目に突入したワインを2人で仲良く煽った。リゾットも僅かに酔っていて、顔が赤くなっている。リゾットは酔っても大人しいたちだが、意外と素直で可愛くなるタイプだと思っている。明日も仕事だが、二人でチームについて語り合っていると一瞬で朝になってしまいそうだ。
結局、朝方アジトに戻ったギアッチョに、おめぇら何してんだぁ!?と叩き起こされたのは言うまでもない。