ガールフレンド
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「げっ、また来たの?」
いらっしゃいませとお冷やを持っていったら、まさかのまさか、私の中で軽い男No.1の称号を持つジョセフ・ジョースターが私を迎えにきたといい、席についているのだ。
「その言い方はひどくねぇか?ユリカチャン」
「思わせぶりな態度の男は嫌いです!今はお仕事中なの!」
「帰り遅いって昨日言ってたから迎えに来てやったのに?」
「本当にそんなことでお店に来たの?」
「俺が迎えにきちゃあダメかよ」
「え、いや、その、そう言うことではない、けども」
別に大丈夫だよ?と言っても、うるせえの一点張り。一人で帰る気はどうやらないらしい。
でもまだ時間が…と腕時計に目をやると、もうすでに22時を回っていて、私のアルバイトの時間はこれで終わりだ。お店の奥から、ユリカちゃんタイムカード忘れずにね!と聞こえてきた。そういやこの前退勤するのを忘れて、22時間くらい働いていることになっていたんだ。
「次にお前は、タイミングだけはいいんだから、と言う」
「タイミングだけはいいんだか………もう!!やめてよ!」
「はは、そう怒んなって。さっさと着替えてこいよ待っててやるから」
「頼んでないもんね〜だ」
「お前が忘れてるだけじゃあねぇのか?」
「なっ!そんなわけないもん!!」
そんな事を言いながら、ぶっちゃけ何を言ったのかは覚えてないので、心の中にそっとしまっておくことにした。
にしてもジョセフが私のこと迎えに来るなんて珍しい。帰りが遅い時は迎えにきてくれる法則でもあるのか?そんなこんなで制服を着替えて少しだけ急いで彼の元へ戻った。
「……お待たせしました」
「よっと、カフェのお姉さんはもう終わりか」
「明日の夕方からまたカフェのお姉さんだけどね」
「どっちも似合ってるぜ、ユリカは」
「口だけは上手いんだから」
「そりゃどうも」
荷物持つか?なんて手を差し出してきたから、いいよ、と断ったらそんな言葉聞こえていなかったようにさっと私の腕からバックを抜き取った。最初から聞かなきゃいいのに、変な男だ。
「少し寒いな」
「店内はあったかかったから、余計かな」
「俺はあっためる方法知ってるけど、知りてぇか?」
「なに?」
「ほら、こうしたらあったけぇ」
「えっ、」
バッグを持ち替えて、空いた手がユリカの手を握る。なんの違和感もなしにだ。
街灯が揺れる街にはあまり人もおらず、2人きりの空間がなんだか不思議でしょうがない。変にシンとしている空気のせいか、彼を変に意識してしまって少しだけ心臓が痛い。これがドキドキなのか、切なさなのかはまた別としてだ。
「彼女でもない人の手、普通繋ぐ?」
「俺なりのアピールって思ってもらえればそれでいい」
「……何キザなこと言ってるのよ」
「でも握り返してんじゃあねえか?嫌なら振り払えばいいだろうが」
「嫌じゃないってば!!嫌じゃないけどなんか、悔しい…的な」
「はぁ?なんだよそれ」
悔しくないわけがない。どんな女の子にだってふらふらと絡む彼が私に絡んできたところでなんだって言うんだ。こっちの気も知らないで、思わせぶりなことして。
きゅうっと胸が痛む。これはドキドキなんかじゃなくて、また別物。
本当だったらキュンキュンしたいところだけど、ここで好きなんてことがバレたら……
そう考えている間にも、ジョセフはこちらを見下ろしながらクスクスと笑っている。なによ、まさか気持ち悟られてる!?
「ジョセフ、あんたまさか…」
「顔に出てるぜ?そんなに俺が信じられねえか?」
「そういう訳じゃあ…」
「そういうことって顔してる」
さっと手を振りほどいたジョセフ。ああちがうの、そうじゃあないの。
待って、と言わんばかりに彼の離れて行った腕を引いた。いや、引いたと思った腕はなぜか彼の方へ向かっていく。
「きゃぁっ」
「おっと、どうしたの?積極的じゃあねえか。抱きついてくるなんてよぉ」
「ち、ち、ちが、ちがうわ!私が抱きついたんじゃあないものっ」
「まあ確かに、今のは俺がお前を抱きしめたんだけどな」
少しだけ路地に隠れるように身を寄せ合って、彼に抱きしめられたまま、どうしたものかと胸元で悩むばかり。まさかこんなことになるなんてと、思考回路はかなりぐちゃぐちゃだ。
「ユリカが俺のこと信用してないようだから、今すぐ信用できるようにしてやるよ」
「それは、えっと…」
どういうこと?
そう聞こうとした開きかけの唇は言葉を発する前に、静かに彼の唇に塞がれた。
時が止まったような感覚だったが、離れていった彼は耳元で、ユリカに一目惚れしてた、なんて囁かれて痺れそうな感覚に陥る。
ジョセフが私に一目惚れ?
そんな嘘みたいなことはあるのか、にわかに信じがたい話である。信じたら負けな気もするが。
嘘に決まってるよ、そう言おうとした矢先に、お得意の彼は私の言葉を当たり前のように遮った。
「嘘に決まってるなんて思ってんだろうが、ここまではっきり言ったんだから、信じるくらいはしてほしいぜ」
「むぅ、」
「と言うよりな、ユリカは俺がアピールしてもアピールしても全く気づかねえから堪ったもんじゃあねえよ?」
「……ぇぇえ!?そうなの!?」
「はぁ、呆れた。だがまぁ、押しが強い女よりは悪くねえ」
ユリカの答えを聞きてえところだが、レディをあんまり遅く帰らせるとエリナばあちゃんに叱られちまうしな、なんて笑う彼を見るとやっぱりあいも変わらずおばあちゃんっ子で、不覚にも可愛いなぁなんて思う。
それでも未だに整理のつかない脳みその自分は、路地から抜け出していこうとするジョセフの腕を、無意識に掴み引き止めていた。
「逃げる気?言うだけ言っておいて?」
「逃げやしないが、ユリカのいい返事が聞けるときにまた会いてえと思っただけだ」
「じゃあ、それが今って言ったら?」
「……ってのは、」
「ジョセフだって、私からのアピールなんにも気づいてないんだから!言うだけ言って終わりなんて、ずるい」
目をパチクリとさせるジョセフ。やはりこう言うときの彼はおバカさんらしい。いつもなら私の考えも読めちゃうくらい鋭いのに。
神様はうまく人間を作ったよ、本当に。
「好きなのは、私だって同じ。だから…その、」
「ストップ、ストップ!それ以上言ったら俺の立場がねぇよアホ」
「な!アホ!?」
確かに、これ以上は私が言ったら面目丸潰れなのかもな。必死に止めにかかるジョセフが面白くって、分かったよと譲ってあげることにした。
そんなジョセフは大きく息をついて、まっすぐにユリカのことを見つめる。
「お前、マジで俺のこと好きなのか?」
「好きじゃだめなの?」
「そうじゃあねえけどよ、むしろありがたい話しだ」
「それはよかった」
「なんつーか、うん、そうだな、両思いってことはそう言うことだよな?」
「ふふ、そうだね。そういうことだね」
「……エリナばあちゃんに教える」
「本当、見た目によらずおばあちゃん子なんだから」
でも、本当にジョセフの事が好き、ずっと好きだったよ。一目惚れだった。
そんな事まだ恥ずかしくて言葉には言えないけど、背伸びをして彼のほっぺに口付けをしたら、驚いた顔して固まっている。大丈夫?と聞けば、おう、と小さく返事が返ってきた。
「帰ろっか」
「…そうだな」
「明日も迎えにきてくれるの?」
「ガールフレンドを夜一人で帰らせるわけねえだろうが」
「うふふ、ありがとう」
ガールフレンドなんてなんだか照れ臭くて少しだけ顔が熱い気もするけど、もう外も暗いし、バレなくてよかった。
なんとも言えない満たされた気持ちを教えるように繋いだ手を少しだけ強く握ると、彼も同じように握り返してくる。想い合うってこんなに幸せになれるなんて、ね。
「好きだ」
彼の声音が耳に響いて、明日もまた会える、そんな喜びに包まれていた。
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