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コロシアム

「もう無理、マジ無理、そろそろゲロ吐く…」
コロシアム中にそんな弱音を吐いたのは司祭だった。それもそのはず、司祭には他の前衛とは比べ物にならないほどデバフがかかっていたのだ。
「相手ギルド、名前と強さくらい把握しとけよ…ギルト最弱にこんなにデバフかけてどーすんだよ。あーまじで吐く」
震える手でなんとか弓を引き絞り、相手に向かって放つが、その矢は力なく飛び、相手に大きなダメージを与えることは無い。
司祭が完全に座った目で舌打ちをする。その時、
「レッドローズだ!!」
外交官の悲鳴が上がる。相手の召喚準備が整いはじめていた。レッドローズは相手にデバフをかけるナイトメアである。そのため司祭としてはさらにデバフを積もうとしてくる相手に見るからにげんなりした顔をしていた。

「えーっとレッドローズ…レッドローズだから…50秒後!後衛チェンジね!」
即座に後ろから堀田が指示を飛ばす。デバフナイトメアの効果は前衛の位置までしか届かないため、後衛が代わりに前に出て、前衛の被害をなくすのだ。そしてモブ王国では後ろの人が前の人を下げるという作戦をとって、ギリギリまで前衛が相手のイノチを奪うことに集中出来るようにしている。
しかしこの作戦に切り替えたのはつい先日のため、まだ完璧とは言えなかった。
(正直ちゃんと下げてもらえるかヒヤヒヤするんだよなぁ)
前までは20秒前くらいにはもう後ろの人を無理やり前に引っ張り出し、後ろに下がっていた司祭としては、ギリギリまで叩かせてもらえるものの、まだ信頼しきることは出来ていなかった。
(10秒前…)
何とか弓を引き絞り相手を攻撃し続けるが、大したダメージに繋がっている手応えはない。ここにさらにデバフを重ねられるともう武器すら投げ出したくなる、そんなことを司祭は考え始めていた。

いよいよ相手のナイトメアの発動時間となりそうな瞬間。自分の体がぐんっと強く後に引っ張られるようにして後衛の位置まで飛ばされるのが分かった。
「いや、これほんとに慣れないんだよ…」

げんなりとしながらも前方を確認すると自分の代わりに前に出てレッドローズのデバフを受けるメイドの姿が見える。他の前衛のメンバーも全員無事デバフを回避出来たようだった。
そのまま一息つきたいところではあったが、相手の攻撃を食らっているメイドを見て、慌てて司祭はメイドと交代の操作を行う。
すれ違いざま一瞬であるため聞こえたか聞こえてないかは分からないが、司祭はメイドにおつかれ、ありがとと声をかけた。
ちらりと戦況を示す表示を見る。僅かの差で負けているようだったが、これならひっくり返せる範疇の内側だ。泣き言言ってられないな、と司祭はまだデバフがかかっていることを示す青色の表示を見ながらため息をつくのだった。
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