ミラージュ討伐
『あ、ルトレだ。ねぇ、討伐依頼みた?一緒に行こうよ』
『…えぇ、いいですよ』
『え』
ミラージュ討伐に向かう道すがら、エリアスは隣を歩いているルトレとのやり取りを思い出していた。
もちろん冷やかしで誘った訳では無い、しかしこの後輩がまさか二つ返事で了承をくれるとは思わなかった。あまりにびっくりしたためほんとに行くの?などと口走ってしまい結局怒られてしまったくらいだ。
そして頭をよぎるのは文化祭での出来事。
気を使わせちゃったかなぁー変なとこ見せちゃったしなぁとぼんやりと考えながら歩いていた。
「エリアスさん、あんまりぼーっとしないでくださいよ。ふらふらどっか行かれても困るんですけど…」
そんな声にはっとして少し視線を下げるといつも通りの少し不機嫌そうな顔をしてルトレがこちらを見ていた。
「大丈夫だよーそんなぼーっとして見えたかなぁ」
口ではそう言いつつも内心では危ない危ない…とエリアスは気を引き締め直すのだった。
「んー…こっちはいなさそう…?ルトレー!そっちはー?」
注意深く周囲を見つつエリアスは同じく近くで魔物探しをしているルトレに声をかける。
「…いえ、こっちにも…」
いない…そう応えようとした時
「1人はやだよ…みんなどこ…?」
後ろからやけに聞き覚えのある、幼い声が聞こえた。
「…っ!」
魔物が出ている場所で後ろを取られたことも手伝って、ルトレは勢いよく後ろを振り向く。
「アタシが何したっていうの…?なんで?」
「…あ、あれは…」
「アタシが何も出来ないから…皆、呆れてどっか行くんだ…アタシはいらないんだ…」
そこに居たのは、幼き日のルトレだった。
「ルトレー?…わ…」
ルトレの返事に心配したエリアスも駆けつける。
エリアスも初めて見る少女の姿に驚きはしたもののルトレの面影の残る姿に警戒心を強めた。
「こんな所に女の子の迷子…じゃないよね」
そう言いながら動かないルトレを庇うようにエリアスは前に出る。
「…?ルトレ?」
「…そんな…なんで…」
覗き込んだルトレの表情は引きつっていた。不気味さからか、それほどこの小さな少女に大きなトラウマがあるのか。
改めてエリアスは目の前の少女に集中する。
(ルトレの小さい頃…であってるのかなぁ。でもこの感じは…魔物…だよなぁ…んー、やりにくい…)
そう考えながら再びルトレに目をやるがその様子はこのままではいけないなとエリアスに訴えかけてくる。
「ルトレ、ちょっと下がるよ。大丈夫、幻覚なことには代わりないんだから」
そう伝えながら警戒は逸らさず下がろうとした時だった。
「…そうやって、みんな離れていっちゃうんだ…」
再び小さなルトレがその口を開く。服の裾を必死に握りしめ、目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「やだよ…一人にしないでよ」
魔物が見せている幻覚…と考えてもエリアスはどうしても無視することができなかった。幻覚とはいえルトレの心を写したもの。
「…もっと早く、キミに出会ってたかったなぁ…」
思わずエリアスの口から漏れたのはそんな言葉だった。同じエルフという種族、全くの不可能では無かっただろう。
その言葉を聞いて小さなルトレは少し顔を上げる。
しかし
「でも、今のルトレは1人じゃないよ。それにこれは幻覚の魔物が語っていいことじゃないと思うなぁ」
その言葉には確かにエリアスの怒りが篭っていた。
「あなたが側にいるって…そう言いたいの?」
エリアスの言葉を受けて様子が変わった魔物にエリアスは警戒を強める。攻撃にも対応できるよう魔力を集中させはじめる。
目の前の少女は俯きながらその姿をゆらゆらと変形させ始めた。小さかった背丈は揺らめくように大きくなってゆき丁度エリアスと同じような背格好に変わる。全体的に青を基調とした服はクローの何も変更を加えていない制服だろう。髪型や体格から恐らく男だと思われるその人物には
顔がなかった。
本来顔があるはずの部分にぽっかりと黒い穴が開いていたのだ。
「…?これは…?」
魔物の変化に不気味には思いつつも何故この姿なのかとエリアスが疑問を抱いた時だった。
「俺のことも思い出せない癖に?僕の顔も、私の名前も、僕と何を話したのかも、忘れちゃった癖に」
ミラージュの口から男とも女とも、老年とも若者とも取れるような、奇妙な声でそう語られた。
その瞬間エリアスの頭に浮かんだのは自分が思い出したくても思い出せない、親友の事だった。
確信をつかれたような気持ちでエリアスは血の気が引くのを感じた。言い返したくてもそこにあるのは確かに事実なのだ。
その瞬間、エリアスの警戒が少し緩んだのを逃さなかったミラージュがエリアスに襲いかかる。生徒の姿をしているもののその爪は異様に鋭く、エリアスの左腕を引き裂く。
「っ…!」
「っ!エリアスさんっ!!」
袖の布が裂け腕からは血が滴る。
咄嗟にルトレがエリアスの腕を掴み自分の後ろに引っ張り距離を取る。
「ぼーっとしないでくださいよって言ったじゃないですか…!腕!見せてください…!」
「あ…ごめん。ルトレ…」
表情は硬いが痛みとルトレの声にハッとしたエリアスは自分たちの周りに氷の防壁を築き上げる。
ミラージュはエリアスが離れたからかその姿をまた幼いルトレのものへと変える。
「なんで助けるのよ…そんなことしたってどうせ無駄なのに…」
氷の壁越しにミラージュの声が聞こえてくる。
「ミラージュの方は俺が…」
とミラージュに意識を集中させたため、ルトレはエリアスの腕へと回復魔法をかけ始める。
「…確かに、アタシはポンコツ娘よ…でも今は、すごくお節介な人が多いし…そのお陰で、こうして魔法も扱えるようになった」
ルトレは回復を行いながらぽつりぽつりと、しかししっかりと芯を持った声で話し始める。
「…だから、アタシは変われるんだって、わかった。一緒にしないで」
そう言いながら、傷の治療が終わったのか少しぶっきらぼうにエリアスの腕を放す。
「だからってぼーっとしてまた怪我しないでくださいよ!」
開放された腕には傷口だった場所からいくつか小さな四つ葉が生えていた。
それを呆然と見つめたあとエリアスは
「…あちゃ、俺も魔物相手に動揺してるばあいじゃなかったや。ごめんねルトレ、かっこわるいとこ見せちゃった」
と照れくさそうに笑った。
2人の顔に最初のような気の迷いは無くなっているように見えた。
その瞬間
「…ずるい…あなただけずるい…!!」
幼いルトレの姿でミラージュは今までにない大きな声をあげる。
「アタシずっと1人だったのに!頑張っても頑張っても1人だったのに!…皆どっかに行っちゃったのに!」
目に涙を浮かばせ必死に叫ぶことをやめない。
さらに、小さなルトレの髪から今のルトレのように四つ葉が生え始める。
「そーだ!皆騙されてるんだ!皆ルトレが可哀想だからって哀れんでるんだ!なのにそーやって信じちゃって!また1人になるのに!バカな奴!バカな奴!」
小さなルトレの姿を借りて喚くミラージュに対してエリアスは氷の防壁を解き、ルトレは静かに武器を構える。
「あんまり勝手なことばっか言うと、俺だって怒るよ」
エリアスは少し怒りを含んだ声で呟く。
「アタシの方が腹が立ってますよ…!さっさと倒して帰りますよ!」
「わかった」
そう2人で軽く目を合わせるとルトレは武器を構え勢いよく飛び出した。
ミラージュが大きなハンマーを構え突っ込んでくるルトレから距離を取ろうとした瞬間、ピキピキという音と共にミラージュの足に氷が這い上がってくる。
「…っ!」
逃げ場を失くしたミラージュの顔には焦りが浮かぶがもう遅い。目の前にはもうハンマーが迫ってきていた。
「ルトレすごかったねー」
地面に軽く埋まるほどハンマーで叩きつけられたミラージュはなんとも見るも無残な姿になっており、エリアスはその前にしゃがみこみ、ルトレに話しかける。
「別にそんな…」
「ミラージュって倒したらちゃんと元の姿になるんだねーこうやって見るとやっぱり魔物だなぁ。ね、ルトレ」
「…」
「ルトレー?」
話しかけてもどうも反応の鈍いルトレに違和感を覚え見上げると見事にそっぽを向かれていた。
「ありゃ、ミラージュの鏡みたいなのも全部割れちゃってるや。この破片持って帰ったらなんかに使えるかなぁ…ね、ルトレどう思う?」
「…」
もう一度話しかけて見るが今度はすたすたと帰る方向へ歩き始めてしまう。相変わらずこっちを向いてくれないし返事すらくれない。
とりあえず置いていかれては困るため追いかけ横に並び歩き始める。
俺また怒らせるようなことしちゃったかなぁ。とエリアスは今日の討伐の様子を振り返る。割と思い当たる節しかない。
どうにかご機嫌を戻して頂かないと…とぐるぐると考えていると1つ伝えておかなきゃいけない事を思い出した。話があっちこっちへ飛躍するエリアスの悪い癖だ。
「俺さぁ、ルトレとずぶ濡れになって鬼ごっこするのけっこう好きだよ。ルトレからしたらめんどうな先輩だなぁってなってるのかもしれないけどさ、多分見かけたら声かけに行っちゃうのとかやめれないだろうなぁ」
その瞬間横を歩いていたルトレの歩みが止まる。俯いており表情は分からないことも手伝いエリアスが戸惑うのも当然だった。
「ルトレ…?どうしたの?もしかして怪我してた?うわ、それとも俺また怒らせた?」
慌てたエリアスはルトレに駆け寄り顔を覗き込もうとするがルトレにぷいと顔を逸らされてしまう。
それでもエリアスがどうしたのだろう、なにかまずいことをしただろうかと顔を追いかけることを止めないため、ルトレの周りをエリアスがぐるぐると回ることになる。
3週目に突入した当たりだろうか。
「ぐるぐるぐるぐる何なんですかっ!」
遂にルトレがいつものように大声を上げる。
「えぇ…だってルトレが逃げるから…」
「うるさいです…!もう…エリアスさん!さっさと帰りますよ!!」
エリアスの言葉をぶった切り、ルトレは足早に歩き始める。
あ、待ってよと後ろを追いかけるエリアス
ルトレの頬が少し赤く染まっていることに気づく人はここには誰もいなかった。
『…えぇ、いいですよ』
『え』
ミラージュ討伐に向かう道すがら、エリアスは隣を歩いているルトレとのやり取りを思い出していた。
もちろん冷やかしで誘った訳では無い、しかしこの後輩がまさか二つ返事で了承をくれるとは思わなかった。あまりにびっくりしたためほんとに行くの?などと口走ってしまい結局怒られてしまったくらいだ。
そして頭をよぎるのは文化祭での出来事。
気を使わせちゃったかなぁー変なとこ見せちゃったしなぁとぼんやりと考えながら歩いていた。
「エリアスさん、あんまりぼーっとしないでくださいよ。ふらふらどっか行かれても困るんですけど…」
そんな声にはっとして少し視線を下げるといつも通りの少し不機嫌そうな顔をしてルトレがこちらを見ていた。
「大丈夫だよーそんなぼーっとして見えたかなぁ」
口ではそう言いつつも内心では危ない危ない…とエリアスは気を引き締め直すのだった。
「んー…こっちはいなさそう…?ルトレー!そっちはー?」
注意深く周囲を見つつエリアスは同じく近くで魔物探しをしているルトレに声をかける。
「…いえ、こっちにも…」
いない…そう応えようとした時
「1人はやだよ…みんなどこ…?」
後ろからやけに聞き覚えのある、幼い声が聞こえた。
「…っ!」
魔物が出ている場所で後ろを取られたことも手伝って、ルトレは勢いよく後ろを振り向く。
「アタシが何したっていうの…?なんで?」
「…あ、あれは…」
「アタシが何も出来ないから…皆、呆れてどっか行くんだ…アタシはいらないんだ…」
そこに居たのは、幼き日のルトレだった。
「ルトレー?…わ…」
ルトレの返事に心配したエリアスも駆けつける。
エリアスも初めて見る少女の姿に驚きはしたもののルトレの面影の残る姿に警戒心を強めた。
「こんな所に女の子の迷子…じゃないよね」
そう言いながら動かないルトレを庇うようにエリアスは前に出る。
「…?ルトレ?」
「…そんな…なんで…」
覗き込んだルトレの表情は引きつっていた。不気味さからか、それほどこの小さな少女に大きなトラウマがあるのか。
改めてエリアスは目の前の少女に集中する。
(ルトレの小さい頃…であってるのかなぁ。でもこの感じは…魔物…だよなぁ…んー、やりにくい…)
そう考えながら再びルトレに目をやるがその様子はこのままではいけないなとエリアスに訴えかけてくる。
「ルトレ、ちょっと下がるよ。大丈夫、幻覚なことには代わりないんだから」
そう伝えながら警戒は逸らさず下がろうとした時だった。
「…そうやって、みんな離れていっちゃうんだ…」
再び小さなルトレがその口を開く。服の裾を必死に握りしめ、目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「やだよ…一人にしないでよ」
魔物が見せている幻覚…と考えてもエリアスはどうしても無視することができなかった。幻覚とはいえルトレの心を写したもの。
「…もっと早く、キミに出会ってたかったなぁ…」
思わずエリアスの口から漏れたのはそんな言葉だった。同じエルフという種族、全くの不可能では無かっただろう。
その言葉を聞いて小さなルトレは少し顔を上げる。
しかし
「でも、今のルトレは1人じゃないよ。それにこれは幻覚の魔物が語っていいことじゃないと思うなぁ」
その言葉には確かにエリアスの怒りが篭っていた。
「あなたが側にいるって…そう言いたいの?」
エリアスの言葉を受けて様子が変わった魔物にエリアスは警戒を強める。攻撃にも対応できるよう魔力を集中させはじめる。
目の前の少女は俯きながらその姿をゆらゆらと変形させ始めた。小さかった背丈は揺らめくように大きくなってゆき丁度エリアスと同じような背格好に変わる。全体的に青を基調とした服はクローの何も変更を加えていない制服だろう。髪型や体格から恐らく男だと思われるその人物には
顔がなかった。
本来顔があるはずの部分にぽっかりと黒い穴が開いていたのだ。
「…?これは…?」
魔物の変化に不気味には思いつつも何故この姿なのかとエリアスが疑問を抱いた時だった。
「俺のことも思い出せない癖に?僕の顔も、私の名前も、僕と何を話したのかも、忘れちゃった癖に」
ミラージュの口から男とも女とも、老年とも若者とも取れるような、奇妙な声でそう語られた。
その瞬間エリアスの頭に浮かんだのは自分が思い出したくても思い出せない、親友の事だった。
確信をつかれたような気持ちでエリアスは血の気が引くのを感じた。言い返したくてもそこにあるのは確かに事実なのだ。
その瞬間、エリアスの警戒が少し緩んだのを逃さなかったミラージュがエリアスに襲いかかる。生徒の姿をしているもののその爪は異様に鋭く、エリアスの左腕を引き裂く。
「っ…!」
「っ!エリアスさんっ!!」
袖の布が裂け腕からは血が滴る。
咄嗟にルトレがエリアスの腕を掴み自分の後ろに引っ張り距離を取る。
「ぼーっとしないでくださいよって言ったじゃないですか…!腕!見せてください…!」
「あ…ごめん。ルトレ…」
表情は硬いが痛みとルトレの声にハッとしたエリアスは自分たちの周りに氷の防壁を築き上げる。
ミラージュはエリアスが離れたからかその姿をまた幼いルトレのものへと変える。
「なんで助けるのよ…そんなことしたってどうせ無駄なのに…」
氷の壁越しにミラージュの声が聞こえてくる。
「ミラージュの方は俺が…」
とミラージュに意識を集中させたため、ルトレはエリアスの腕へと回復魔法をかけ始める。
「…確かに、アタシはポンコツ娘よ…でも今は、すごくお節介な人が多いし…そのお陰で、こうして魔法も扱えるようになった」
ルトレは回復を行いながらぽつりぽつりと、しかししっかりと芯を持った声で話し始める。
「…だから、アタシは変われるんだって、わかった。一緒にしないで」
そう言いながら、傷の治療が終わったのか少しぶっきらぼうにエリアスの腕を放す。
「だからってぼーっとしてまた怪我しないでくださいよ!」
開放された腕には傷口だった場所からいくつか小さな四つ葉が生えていた。
それを呆然と見つめたあとエリアスは
「…あちゃ、俺も魔物相手に動揺してるばあいじゃなかったや。ごめんねルトレ、かっこわるいとこ見せちゃった」
と照れくさそうに笑った。
2人の顔に最初のような気の迷いは無くなっているように見えた。
その瞬間
「…ずるい…あなただけずるい…!!」
幼いルトレの姿でミラージュは今までにない大きな声をあげる。
「アタシずっと1人だったのに!頑張っても頑張っても1人だったのに!…皆どっかに行っちゃったのに!」
目に涙を浮かばせ必死に叫ぶことをやめない。
さらに、小さなルトレの髪から今のルトレのように四つ葉が生え始める。
「そーだ!皆騙されてるんだ!皆ルトレが可哀想だからって哀れんでるんだ!なのにそーやって信じちゃって!また1人になるのに!バカな奴!バカな奴!」
小さなルトレの姿を借りて喚くミラージュに対してエリアスは氷の防壁を解き、ルトレは静かに武器を構える。
「あんまり勝手なことばっか言うと、俺だって怒るよ」
エリアスは少し怒りを含んだ声で呟く。
「アタシの方が腹が立ってますよ…!さっさと倒して帰りますよ!」
「わかった」
そう2人で軽く目を合わせるとルトレは武器を構え勢いよく飛び出した。
ミラージュが大きなハンマーを構え突っ込んでくるルトレから距離を取ろうとした瞬間、ピキピキという音と共にミラージュの足に氷が這い上がってくる。
「…っ!」
逃げ場を失くしたミラージュの顔には焦りが浮かぶがもう遅い。目の前にはもうハンマーが迫ってきていた。
「ルトレすごかったねー」
地面に軽く埋まるほどハンマーで叩きつけられたミラージュはなんとも見るも無残な姿になっており、エリアスはその前にしゃがみこみ、ルトレに話しかける。
「別にそんな…」
「ミラージュって倒したらちゃんと元の姿になるんだねーこうやって見るとやっぱり魔物だなぁ。ね、ルトレ」
「…」
「ルトレー?」
話しかけてもどうも反応の鈍いルトレに違和感を覚え見上げると見事にそっぽを向かれていた。
「ありゃ、ミラージュの鏡みたいなのも全部割れちゃってるや。この破片持って帰ったらなんかに使えるかなぁ…ね、ルトレどう思う?」
「…」
もう一度話しかけて見るが今度はすたすたと帰る方向へ歩き始めてしまう。相変わらずこっちを向いてくれないし返事すらくれない。
とりあえず置いていかれては困るため追いかけ横に並び歩き始める。
俺また怒らせるようなことしちゃったかなぁ。とエリアスは今日の討伐の様子を振り返る。割と思い当たる節しかない。
どうにかご機嫌を戻して頂かないと…とぐるぐると考えていると1つ伝えておかなきゃいけない事を思い出した。話があっちこっちへ飛躍するエリアスの悪い癖だ。
「俺さぁ、ルトレとずぶ濡れになって鬼ごっこするのけっこう好きだよ。ルトレからしたらめんどうな先輩だなぁってなってるのかもしれないけどさ、多分見かけたら声かけに行っちゃうのとかやめれないだろうなぁ」
その瞬間横を歩いていたルトレの歩みが止まる。俯いており表情は分からないことも手伝いエリアスが戸惑うのも当然だった。
「ルトレ…?どうしたの?もしかして怪我してた?うわ、それとも俺また怒らせた?」
慌てたエリアスはルトレに駆け寄り顔を覗き込もうとするがルトレにぷいと顔を逸らされてしまう。
それでもエリアスがどうしたのだろう、なにかまずいことをしただろうかと顔を追いかけることを止めないため、ルトレの周りをエリアスがぐるぐると回ることになる。
3週目に突入した当たりだろうか。
「ぐるぐるぐるぐる何なんですかっ!」
遂にルトレがいつものように大声を上げる。
「えぇ…だってルトレが逃げるから…」
「うるさいです…!もう…エリアスさん!さっさと帰りますよ!!」
エリアスの言葉をぶった切り、ルトレは足早に歩き始める。
あ、待ってよと後ろを追いかけるエリアス
ルトレの頬が少し赤く染まっていることに気づく人はここには誰もいなかった。
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