フォリーシスカルライナー

エルナたちは、王城を後にした。

ディーリカ王の言葉が、まだ頭の奥に残っている。

デクサルザは、ホシリア族と意思疎通ができる存在であること。

そして、この聖都では、それが特別なことではないということ。

城門をくぐったところで、エルナは足を止めた。

「……」

無意識に、街を見渡す。

石畳の通り。

行き交う人々。

屋根の連なる街並み。

――さっきまでは、ただの風景だった。

けれど今は、違う。

建物の影。

高い場所。

人の足元。

何かが、いる気がする。

はっきりと見えたわけじゃない。

姿を捉えたわけでもない。

それでも、「気づいていなかっただけだ」と思えてしまう。

「……さっきまで、全然気にしてなかったのに」

エルナがそう言うと、トリークもゆっくりと周囲を見回した。

「言われてから見ると……なんていうか、落ち着かないな」

「分からないから、だと思う」

エルナはそう答えた。

分からない。

話せない。

意思疎通もできない。

それでも、ここには確かに、

自分たちとは違う在り方の存在がいる。

アルファッドは少し前を歩いたまま、振り返らない。

ただ、進行方向だけは正確に把握している。

まるで、この街の“見えないもの”も含めて、

全部承知しているかのように。

「エンベール亭は、この先だ」

短い言葉だった。

エルナは一度、深く息を吸う。

――王の話を聞く前には、

きっと、何も見えなかった。

でも今は違う。

見えないものが、

確かに、そこにあると知ってしまった。

エルナたちは、

そのまま聖都一番の宿屋――

エンベール亭へと向かった。
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