失恋の薬に(闇夜の常連客)

なんと言葉を返せば良いか分からなかった。

「……優しいね。大切な人の愛を求めながらも、ファンの皆に愛を返すなんて。キミともなれば、世界規模だろう」

ただ、私は日頃のありのままの姿を褒めることしか出来なかった。

「羊を可愛がるのは飼い主の勤めだからね」

諦めが混じった微笑みに、私は慰めの微笑みを返した。雑談の中でできあがったカクテルを潜に勧める。

「お待たせ。テキーラサンセットだよ。情熱的な深紅がキミによく似合うね。キミのイメージカラーと一緒だ」

「ありがとう。嬉しいね。君もせっかくだし食べたら?」

小鳥を指さす。小鳥は無垢な顔で私たちの会話を聞いていた。

「・・・・・・惜しいね。こんなに可愛らしいのに」

私の躊躇を、潜は軽く笑った。

「僕の厚意を腐らせないでくれよ」

「まさか。味わっていただくよ」

手を洗った後、先ほどのように小鳥を手に取る。透明な袋を取り、小鳥をまじまじと見つめた。

「はは。笑みがこぼれているじゃないか」

「あんまりにも可愛らしいからね。まさに芸術品だ」

「また何かお土産を買ってくるよ。期待して待っていると良い」

グラスの壁を伝う水を、潜は指で拭った。

「楽しみだ。私も研修旅行で何か買ってくるよ。今度、礼光とタイに行く予定なんだ」

「スリに遭わないように気をつけることだね」

潜はカクテルを飲んで、私の小鳥を見る。ひょっとして、食べるまで見つめ続ける気かい? 私は小鳥の頭を軽く撫でて、羽に噛みついた。薬にしては甘過ぎる。しかし、この甘さが恋の痛みを忘れさせてくれるというのだろうか。
ぼんやりと待ち人を考えてみる。なぜ私はその人を待っているのだろうか。夜明けの兆候もなく、ただ夜の真ん中に佇むように途方に暮れていた。そもそも、これが恋かどうかすらも判別できない。

「……僕は、君のカクテルが好きだ。もちろん、君との時間もね」

私の心の曇りを感知してか、その言葉は不思議と温かかった。潜の言葉に微笑みを返す。屈折した言葉を放つ彼には珍しく、真っすぐな思いが込められていた。

「ありがとう、私も君と過ごす時間が心地良いよ」

ひょっとすると、彼もまた明けない夜を知っているのかもしれない。私たちはお互いの痛みを完全に理解することはできないかもしれない。それでも、明けない夜は共有できるはずだ。
それから静かに各々の薬を味わった。私たちに、これ以上の言葉は要らないから。

fin.
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