失恋の薬に(闇夜の常連客)

その日、私はHAMAツアーズのバーでカクテルの準備をしようとしていた。今晩はダニエルからオーダーをいくつか貰っている。ビヤカクテルやネットで見つけた美味しそうなカクテル。事前にレシピを確認して、在庫は大丈夫かと確認していた。
すると、潜がバーカウンターにやってきた。潜は椅子に優雅に座った。いつもの定位置だった。

「やあ、夜鷹。お土産をどうぞ」

潜が透明なパッケージに包まれた小鳥のマジパンを渡す。私は彼が律儀にお土産を買ってきたことに驚きながらも、忘れずに感謝を伝えた。

「ありがとう。ずいぶんと可愛らしい鳥だね。エストニアではマジパンが有名だから買ってきてくれたのかな」

小鳥は可愛らしく私の手に収まっていた。小鳥の羽には繊細な彫りがあしらわれていて、まるで今にもさえずり始めそうだった。あまりのかわいらしさに、思わず口が緩む。私がじっと小鳥を眺めている横で、潜はテーブルに頬杖を突きながら土産話を始めた。

「研修旅行の途中でマジパン屋の店主と知り合って、マジパンの彩色体験をしたんだよ。まあ、僕は少しだけ彩色して、あとは店主に任せたんだけどね」

「はは。でも貴重な体験ができて良かったんじゃないのかい?」

「報告書のネタにはなったね。その点では感謝しているよ」

目を閉じて微笑む潜。顔に疲れが見える。きっと、研修旅行で疲れているのだろう。私は小鳥にカウンターテーブルの端に置いて待機してもらった。小鳥の顔は、潜の方に向いている。まるで旅先の土産話を私と一緒に聞いているかのようだ。

「そうか。良かった。君は海外で何かあってもなんとかすると思っていたからね」

布巾を濡らして絞っていると、やれやれと潜は肩をすぼめた。

「もう少し心配してくれても良いと思うんだけどね」

「まさか。信頼しているんだよ」

ふっと笑って、そのままテーブルを拭き始める。潜はテーブルから手を遠ざけて、邪魔をしないようにしてくれた。綺麗に拭かれたテーブルは、周囲を鏡のように映し返している。

「丁寧な仕事だ」

「せっかくお土産を渡してくれたんだから、何か振る舞おうか」

「いいのかい? 悪いね」

潜は一瞬だけ思案して、こう答えた。

「テキーラサンセット。よろしく頼むよ」

少し右に傾けた潜の顔に、影が差した。

続く
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