クリームパン争奪戦(あさって通訳マン)

食堂に行くと、冷蔵でジュースを取り出そうとした七基とばったり出会った。学校から帰ったばかりで、喉が渇いていたらしい。一緒に食べようとあく太が誘い、5人でテーブルを囲んで試食会を行うことになった。

「じゃあ、どうぞ」

テーブルには、潮が集中して作ったと思われる新作クリームパンの試作が並ぶ。ああ、やっと食べられるのだ! 季肋の胸は歓喜に打ち震えた。
皆で「いただきます」をして、各々試食に移る。季肋はクリームパンをそっと小さくちぎってみる。中から、乳白色のクリームと薄い空色のクリームがちらりと覗いた。これが、待ち望んでいた甘味の核。黙って唾を飲み込んだ。心して食べたい。
小さくちぎったパンを口に運ぶ。パンは綿のように柔らかく、軽く弾力がある。噛む度に微かにパンに歯を押し返され、幸せがやってくる。
ああ……幸せだ……。季肋は喜びを頬張った。

「あっ、季肋。顔がほころんでる」

七基が微笑みながら指をさした。慌てて顔を隠そうとした季肋を、
「あはは、隠さなくても良いのに」と七基は笑った。

「仕方がない。うーちゃんのクリームパンは美味しいからな」

宗氏のフォローに七基と季肋は頷いた。潮は若干うれしさを隠しきれない様子で、季肋を見ている。なんだか恥ずかしくなった季肋は、再びクリームパンを楽しみ始めることにした。
早速、クリームのある部分をパクッと頂く。ソーダの爽快な風味が口いっぱいに広がり、特徴的なスッとしたミントの透明感のある香りが鼻を抜けていく。

「こ、れ……ミント、隠し味に使ってる……?」

「よく分かったね。仏像。青春をイメージしたフレーバーを頼むって言われてさ。ソーダの甘くて爽やかな味とミントがスーッと冷たく感覚でうまく再現しようとしたんだよ。まあ、ミントがうるさくならないように微調整するのが難しかったんだけど」

合点がいった。まさにこのクリームパンは青春を表すのにぴったりだ。

「……その顔だと、このクリームパンは成功みたいだね」

「うん……試食させてくれて、ありがとう……」

「ありがとな! 潮。これめっちゃうめーわ。これからも購買で食べる」

見ると、あく太の手にはすでにクリームパンが無くなっていた。

「うそ、もう食べたの?」

「うめーもん! ごち!」

やばすぎ……とこぼす潮を気にもせず、季肋の隣に座っていたあく太は豪快にアハハッと笑った。

「このクリームパン、すごくうまいな」

「ああ。きっとたくさん売れるぞ」

「本当? 嬉しいな……。まだ改善できる所あるかな、むーちゃん」

七基と宗氏と潮が話しているのを横目に、あく太は季肋の肩をポンと叩いた。

「あのさ、今日、色々あったけど楽しかったな!」

「ああ……。こんな日も、たまには、悪くない……」

疲労した体に、クリームパンの甘みが染みる。きっと、これからも自分は色んな事にぶつかって苦しみ、疲れる時が来るだろう。それでも、こんな何気ない日々が自分を支えてくれるのではないか。そう、季肋は静かに考えていた。
5人の和気藹々とした空気の中で、カランと麦茶の氷が軽快に鳴った。

fin.
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