クリームパン争奪戦(あさって通訳マン)

「ただいまー。うわ、アホ竹と仏像じゃん。なんでいんの」

扉を開けて入ってきた潮がのけぞった。

「あっお邪魔してまーっす!」

あく太が元気に敬礼する。季肋は遠慮がちに会釈した。

「おかえり……なさい」

「おかえり、うーちゃん。実は、五十竹に数学の課題のお礼をしてもらったんだ」

耳に髪をかけながら、嬉しそうに宗氏はクリームパンを掲げて見せた。

「へえ。そう。良かったじゃん」

潮は宗氏のクリームパンを指さした。

「あ、それ購買のクリームパン?」

「そう。うーちゃんが作ったクリームパンだ」

「へえ。お礼にクリームパンあげたんだ。少しは見る目あるじゃん」

潮の鋭い視線が和らぐ。やはり褒められて嬉しい気持ちは隠せないようだ。

「まあな! 前に宗氏が好きだって聞いてたからさ」

「本当。で、仏像とアホ竹は食べたワケ?」

潮が聞くと、あく太は気まずそうに目を逸らした。

「いや、食べてない」

「ハァ?」

トゲのある疑問符だ。眉をしかめる潮。続いて季肋も、俯いて答えた。

「俺も……食べてない」

「実は、購買でオレ達の分も買おうとしたんだけど色々あってさ~」

あく太が今日あったことを全て赤裸々に話した。黙って最後まで話を聞いていた潮は、ため息を吐いた。

「分かった。全部。ホント最悪だよね」

朔次郎と同様に、潮は学校の階級制度にほとほと嫌気がさしているようだ。だが、もうこれは動かしようのない空気感であるのは事実で。工場排水で濁りきった川が再生するのが難しいように、学校の空気を一新するのも難しい。

「たまたま、試作品で作りすぎたのがあるから。良かったらそれ食べて。購買で好評だから、理事長に新作を頼まれて今作ってるんだよ」

「……いい、のか?」

不機嫌な潮の顔色を伺いながら、季肋は確認した。

「いいよ。なんだったら、全部食べて良いから」

「作りすぎとは、本当か? うーちゃん。本当は元から皆に食べて欲しかったんじゃないか」

宗氏の鋭い指摘が入る。

「いっ、いーから。ほら、下降りて。ここで食べてパン屑落としたら許さないから!」

慌ててなんとか誤魔化す潮に、季肋はある程度慣れつつあった。ひょっとしたら彼は、そこまで怖い人間ではないのかもしれない。
潮にどやされながら、皆で食堂に向かうのだった。

続く
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