クリームパン争奪戦(あさって通訳マン)
結局、手に入れたクリームパンは1個だけだった。教室で弁当を食べた季肋とあく太は、手に入れたこのクリームパンは宗氏に渡そうという話に落ち着いた。昼休憩に話したように、自分たちの分はまた買いに行けば良い。
部活を終えてHAMAツアーズの寮に帰った2人は、早速宗氏の部屋に訪れた。宗氏が居てくれると良いのだが。あく太がノックをすると、宗氏の「どうぞ」の涼やかな声が返ってきた。
扉を開けると、科学雑誌を広げて持っていた宗氏がこちらに視線を向けていた。
「良かった……。生徒会で……いない、のかと思ってた……」
「この時期は忙しくないから、早めに帰れるんだ。それで、なにか用か?」
「おう! これ、数学の課題のお礼! サンキュな!」
あく太がクリームパンを渡すと、宗氏の顔がほころんだ。疲労のとれる笑顔だった。このために頑張ってきたのだと、2人は密かに喜んだ。
「ありがとう」
宗氏が包み紙を開けて確認すると、そこにはクリームパンがお待たせといった顔で収まっていた。
「クリームパンか」
「ああ。これ、好きだったろ? 前に言っていたよな」
あく太が自信満々にサムズアップする。
「そうだな。実は、これはうーちゃんが開発した商品なんだ」
「ええ!?」
2人の驚きに、宗氏も驚き、絹のような彼の髪の毛が揺れた。
「知らなかったのか?」
「知ら、ない……」
季肋が首を振ると、同調してあく太もブンブンと首を横に振った。それはもう学生のレベルを超えているのでは? 季肋は困惑した。
「知らねェ。全然気づかなかった」
「そうか。実はな……」
宗氏によると、理事長の提案で料理部の考案した料理を購買で売り出そうという話になったらしい。なんでも、文化祭で提供される料理部の料理は誠に評判らしく、ぜひとも日常的にその味を楽しめるようにしたいとのご意向だったとか。
料理部がレシピを考案し、それを元にクリームパンが製造・販売される。この企画に白羽の矢が立ったのが、潮だった。
「このクリームパンは、うーちゃんの努力の象徴でもあるんだ。幼なじみの実力が認められるのが、これほどまでに嬉しいとは思わなかった」
宗氏がそっとクリームパンを抱きしめる。彼の視線には、熟年の信頼と絆を感じさせる愛がこもっていた。
「ちなみに、好評のため来年度の料理部の予算が増えるらしい。本当に良かった」
「う、羨ましい……」
「良いなあ! 色んな人を喜ばせて、おまけに活動するためのお金も増えるなんてさ。オレも頑張ろうっと」
無論、自分もだ。季肋は拳を握った。自分が楽しいだけではなく、他の人も楽しませたい。クリエイターとして、それは喜ばしいことだ。紫、紅、黄色、緑などの極彩色の数々が頭に浮かぶ。自分の世界を構成する色。自分が表現したいと思う色。それらが他の人の心を動かせたらどんなに良いか。部屋に帰ったら、筆を握ろう。
季肋は決意を新たにした。
続く
部活を終えてHAMAツアーズの寮に帰った2人は、早速宗氏の部屋に訪れた。宗氏が居てくれると良いのだが。あく太がノックをすると、宗氏の「どうぞ」の涼やかな声が返ってきた。
扉を開けると、科学雑誌を広げて持っていた宗氏がこちらに視線を向けていた。
「良かった……。生徒会で……いない、のかと思ってた……」
「この時期は忙しくないから、早めに帰れるんだ。それで、なにか用か?」
「おう! これ、数学の課題のお礼! サンキュな!」
あく太がクリームパンを渡すと、宗氏の顔がほころんだ。疲労のとれる笑顔だった。このために頑張ってきたのだと、2人は密かに喜んだ。
「ありがとう」
宗氏が包み紙を開けて確認すると、そこにはクリームパンがお待たせといった顔で収まっていた。
「クリームパンか」
「ああ。これ、好きだったろ? 前に言っていたよな」
あく太が自信満々にサムズアップする。
「そうだな。実は、これはうーちゃんが開発した商品なんだ」
「ええ!?」
2人の驚きに、宗氏も驚き、絹のような彼の髪の毛が揺れた。
「知らなかったのか?」
「知ら、ない……」
季肋が首を振ると、同調してあく太もブンブンと首を横に振った。それはもう学生のレベルを超えているのでは? 季肋は困惑した。
「知らねェ。全然気づかなかった」
「そうか。実はな……」
宗氏によると、理事長の提案で料理部の考案した料理を購買で売り出そうという話になったらしい。なんでも、文化祭で提供される料理部の料理は誠に評判らしく、ぜひとも日常的にその味を楽しめるようにしたいとのご意向だったとか。
料理部がレシピを考案し、それを元にクリームパンが製造・販売される。この企画に白羽の矢が立ったのが、潮だった。
「このクリームパンは、うーちゃんの努力の象徴でもあるんだ。幼なじみの実力が認められるのが、これほどまでに嬉しいとは思わなかった」
宗氏がそっとクリームパンを抱きしめる。彼の視線には、熟年の信頼と絆を感じさせる愛がこもっていた。
「ちなみに、好評のため来年度の料理部の予算が増えるらしい。本当に良かった」
「う、羨ましい……」
「良いなあ! 色んな人を喜ばせて、おまけに活動するためのお金も増えるなんてさ。オレも頑張ろうっと」
無論、自分もだ。季肋は拳を握った。自分が楽しいだけではなく、他の人も楽しませたい。クリエイターとして、それは喜ばしいことだ。紫、紅、黄色、緑などの極彩色の数々が頭に浮かぶ。自分の世界を構成する色。自分が表現したいと思う色。それらが他の人の心を動かせたらどんなに良いか。部屋に帰ったら、筆を握ろう。
季肋は決意を新たにした。
続く